一瞬「きれいだな」と思った直後、周囲は惨状に。御嶽山噴火から5年経つ今考えるべきこと

社会

更新日:2020/9/1

『検証・御嶽山噴火 火山と生きる―9・27から何を学ぶか』(信濃毎日新聞社編集局:編/信濃毎日新聞社)

 2014年9月27日、長野県と岐阜県をまたぐ御嶽山が噴火した。死者・行方不明者と負傷者数のいずれも60名以上に達した未曾有の火山災害は、いまだ多くの人びとの記憶に強く残っている。

 発生から5年が経過する今年、4年前に出版された書籍『検証・御嶽山噴火 火山と生きる―9・27から何を学ぶか』(信濃毎日新聞社編集局:編/信濃毎日新聞社)をあらためて手に取った。信濃毎日新聞が2015年1月から半年間かけて連載した記事をまとめた本書には、災害発生当時の克明な記録が綴られている。

■噴火直後、青空に映える噴煙をみて「きれいだな」と思った

 御嶽山が噴火したのは、9月27日の11時52分のことだった。当時、山頂付近で「地鳴りのような音」を聞いたと話すのは、埼玉県から来た中学校教諭の男性・Aさん。その場で居合わせた別の男性登山者から「火山性の地震ですかねぇ」と声をかけられてからしばらくすると、突如として山あいから灰色の煙が吹き出し、何かが爆発したような音が鳴り響いたという。

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 みるみるうちに駆け上がる煙を1枚だけ写真に収めたAさんは、一目散にすぐ下にあった祈祷所へ駆け込んだ。時間にしておよそ数秒ほどのできごとだっただろうか。危機感を抱きながらも青空に映える噴煙をみて「きれいだな」と思ったAさんであったが、周囲にはまだカメラを噴火口へ向ける登山者たちもいた。

 祈祷所から約50センチ突き出たひさしの下は、次々と登山者たちで埋まっていった。お守りなどを置く高さ約70センチ、幅約20センチの木製台の下でうずくまり耐えていたAさん。火山灰と噴石が降り注ぎ、熱風が襲ってくる状況下で、辺りには悲鳴や助けを求める声が響いていた。

■自ら被災しながらも登山者たちの救助にあたった山荘の関係者たち

 噴火口近くにある山荘でアルバイトをしていた男性・Bさんは、発生直後に周囲の登山者へ「中へ入れ!」と声をかけた。災害発生直後にもかかわらず登山者たちにヘルメットを配り、みずからも台所の作業台に潜り避難した。

 その後、警察、消防、報道機関から着信が相次ぐ中で、山荘にあった携帯電話の電池はみるみる減っていった。医療関係者だと名乗り出てくれた女性登山者にけが人の処置を任せ、自らも被災しながら、問い合わせやけが人への対応、登山者の下山誘導など、次々と瞬時の判断を迫られていた。

 一方、登山者30人ほどを別の山荘へ招き入れたのは、その山荘の支配人を務めていたCさん。噴火が収まったあと、Cさんは周囲の状況をどうにか把握しようと、火山灰に埋まってしまった御嶽山の山肌へと向かった。

 けがで血を流していた男性に「助けに来るから待ってろ」と声をかけたCさんは、自らも熱風を吸い込んだことで気道をやけどした。先ほどの男性の救助中であったが、山麓の関係者から「危ない」といわれ、やむなくいったん小屋へ戻ろうと決断。やがて毛布を手に外へふたたび出たが、噴煙にまみれたのか、先ほど見たはずの血を流していた男性の姿はもうなかった――。

■未曾有の大災害を受けて研究者たちが実施した新たな試み

 火山の噴火にも種類があり、地下からマグマがせり上がるマグマ噴火とは異なり、御嶽山の噴火にみられた水蒸気爆発は、前兆がつかみにくいのだという。しかし、このような大惨事を防ぐ手立てはないのだろうか。未曾有の火山災害から1年弱して、北海道大学や東京工業大学などの研究者グループは入山規制区域内に立ち入った。

 研究者グループは、人の立ち入れない火口の上空3100~3200メートルにセンサーや赤外線カメラを組み込んだ小型無人機・ドローンを飛ばし、水蒸気爆発の予知に繋がりうる調査を実施した。

 じつは、御嶽山では災害発生前にも噴火の前兆とされる火山性地震や、地下の膨張を示す地殻変動や火山性微動が観測されていた。しかし、火山ガスの成分や河口付近の熱を継続的に観測し、分析する試みはされていなかった。そのため、災害発生後には気象庁に「なぜ入山規制のレベルを引き上げなかったのか」「本当に予知できないのか」といった疑問の声が寄せられていたという。

 自然災害の予知はいまだ課題として残されている。当時研究に関わった大学関係者は、観測項目を増やすことで、それまで分からなかったことが分かってくるという期待はある、と振り返っている。

 今年の7月、御嶽山は山頂までの入山規制がようやく解除された。しかし、8月7日には浅間山が噴火したニュースが報じられるなど、かねてより“火山大国”と称される日本においては、いつふたたび火山災害に見舞われるか分からない。人の記憶は薄れていくものであるが、未曾有の大惨事から何を学ぶべきか。災害の記憶を風化させないためにも、本書はこの先も読み継がれるべき1冊である。

文=カネコシュウヘイ