日本式Webマーケティングを学ぼう! 仕事や日々の生活に役立つビジネススキル

ビジネス

公開日:2019/9/30

『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? アマゾンに勝つ! 日本企業のすごいマーケティング』(田中道昭、牛窪恵/光文社)

 新商品の開発・企画において、「マーケティング」はもはや外せない存在である。市場の動向を捉え、適切なターゲットを設定することで、売上を向上させる手段としてマーケティングを利用する企業は数えきれないだろう。ところが日本では「マーケティングって、何」「ビッグデータを分析することなのかな」など、マーケティングの定義自体を知らない人も多い。しかし、本来のマーケティングは誰にとっても面白く、役に立つものである。

『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? アマゾンに勝つ! 日本企業のすごいマーケティング』(田中道昭、牛窪恵/光文社)では、マーケティング戦略に成功した企業の商品やサービスを例にして、「マーケティングとはどういうものか」について詳しく解説されている。メルカリやヤフオク、LINEにスタディサプリ、そしてアマゾン。これらが成功し、多くの人々に受け入れられた理由の一端にマーケティングがあるのだ。

 本書は2人の著者により執筆されており、現場のリサーチを専門とする牛窪恵と立教大学ビジネススクール教授である田中道昭の共著である。2人の専門家がそれぞれの視点からマーケティングについて解説し、その面白さを解き明かしてくれる。全7章で構成される本書は、章ごとに「リサーチ編」「マーケティング分析編」に分かれているのだ。リサーチ編では具体的な商品やサービスを例に、それらがいかにして市場に受け入れられたかについて、消費者の声をもとに分析していく。

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 それに対してマーケティング分析編では、リサーチ編で取り上げた商品やサービスのマーケティングについて学術的に解説していくのだ。リサーチを通じて聞こえてくる消費者の声はとても面白く、なかには「だから流行っているのか」と驚かされる話も多い。そして、紹介された事例にもとづいてマーケティング論を展開するため、多少難しい話でもすんなりと入っていけるのだ。

 たとえば第1章のリサーチ編では、「メルカリ」と「ヤフオク」の違いについて、消費者の声をもとに考えていく。メルカリは女性からの人気が高く、ヤフオクが男性から支持を受ける理由は、それぞれのサービスが提供する「感情」が異なるからだ。利用者同士が取引を行うという点で両者は同質だが、取引の過程が異なることで利用者の受ける感情に大きな差が出るという。メルカリの場合、販売者と購入者は多くのコミュニケーションを持つ。商品の詳細について尋ねたり価格交渉を行ったりするからだ。そのためメルカリの利用者は、「共感」によって繋がっていく。ヤフオクではそうしたやり取りよりも、「良い商品を見つけ、安く購入する」ことが重視される。他人が目をつけていない優良商品を見つけ、低価格で競り落とすことが重要なのだ。そこにあるのは「競争」や「勝利」である。それが男女比率の違いとして表れたわけだ。

 リサーチ編における情報をもとに、マーケティング分析編ではメルカリとヤフオクのマーケティング戦略を比較している。そこで用いられる手法が「STP分析」だ。STPとはマーケティング戦略の中核となる「セグメンテーション」「ターゲッティング」「ポジショニング」を指し、この3つの要素から2つのサービスを分析することで、両者の差が明確になるのだ。言葉だけを聞くと難しいが、具体的な事例を使った解説はわかりやすい。メルカリとヤフオクは似たように見えるサービスでありながら、それぞれが成長を続けていける理由にも納得できるだろう。

 本書はマーケティングの専門書ではない。しかし、「マーケティングとはどういうものか」「いかにマーケティングが重要かつ面白いものか」を教えてくれる本である。マーケティングを通じてビジネスの世界を覗けば、ダイナミックな変化の様子が見えてくる。同時に「人間の本質を追究する」というマーケティングの核が、あらゆる分野に通じるものだと気づくだろう。世間では小難しいものだと思われがちなマーケティングだが、本書はそのエッセンスを抽出した書籍であり、これまで関心のなかった人にこそ勧めたい1冊である。

文=方山敏彦