がん治療で有名病院を選ぶ意味はあまりない? 大腸がん専門の外科医長が明かす真実

社会

2019/10/15

『がん外科医の本音』(中山祐次郎/SBクリエイティブ)

 もう寿命をまっとうできる人は少ないのかもしれない。今や2人に1人が「がん」にかかる時代。この病気に苦しみ、悲しみ、大切な誰かと辛い別れをした人が数多くいる。医療が発達して感染症による死が遠くなった現代において、今度は「がん」との向き合い方を考える必要性が出てきた。

 しかしこの病気の知識は専門性が高い。医者にしかわからない情報があまりに多く、必要最低限の情報さえ手に入れられない患者やその家族たちが散見される。そこにつけこんだ悪徳業者が「この水を飲めばがんが治る!」「このブレスレットをつければ細胞がよみがえる!」など、わずかな希望にすがる人々からお金を巻き上げようとする。本当に見るに堪えない光景だ。

『がん外科医の本音』(中山祐次郎/SBクリエイティブ)は、大腸がんの専門医で、福島県の病院で外科医長を務める中山祐次郎医師が使命感に駆られて書きあげた1冊。「おそらく私以外に書ける人はいない」。そんな強い意志で執筆した本書には、がん患者本人、その家族や親しい人たちが今すぐ目にしたい「がん外科医の本音」が記されていた。本書の要点をできるだけコンパクトにまとめてご紹介するので、ぜひ誰かのために役立ててほしい。

■「医者はがんを切りたがる」というウワサは本当

 がんに関して世の中でウワサされている1つに、「医者はがんを切りたがる」とある。中山医師によると、ある意味で本当だそうだ。

 そもそもなぜ「がん」という病気が起きるのか。これを説明すると長くなるので、超ざっくりいうと、体の形や機能を保つために「死ぬべき細胞」が死ななくなって異常なスピードで増殖してしまうから。この異常な細胞を「がん細胞」という。がん細胞は異常な増殖を繰り返し、体中に転移するので、早くに取り除かないと全身の器官の機能が壊されてしまうのだ。

 ここでポイントは、「異常なスピードで増殖」すること。がんの一部だけを切り取っても、壊れた細胞は再び増殖を繰り返してしまう。がんが再発する理由の多くが、がん細胞のすべてを切り取れなかったせいだ。つまりがんを治すには、壊れた細胞を完全に切り取って、正常な細胞だけを残さなければならない。

 だから「医者はがんを切りたがる」。がんを完全に切除することで患者の生存期間がもっと延びるかもしれない。反対に、全身に転移するなど手遅れの場合は、切っても生存期間が延びないので、切るに切れない。

■医者は自分の好みで治療法を決めているのか?

 ところが、がんは非常に厄介で、なかには切れない種類もある。中山医師はがんを3つの種類に分けて解説する。

1.上皮性悪性腫瘍
2.非上皮性悪性腫瘍
3.造血器由来の悪性腫瘍など

 これらの解説をすると長くなるので、またも超ざっくり説明したい。1は、上皮を構成する細胞から発生するがんで、例えば「胃がん」「乳がん」など、よく耳にするがんだ。切れるがんでもある。一方、2は骨や筋肉、脂肪、血管などにできるがん。「肉腫」と呼ばれており、珍しく非常にタチが悪い。そして3は、骨髄にできる血液の悪性腫瘍であり、原則として切れない。これら3つのがんに対して、医者は、三本柱でがんを治療する。

1.手術
2.抗がん剤(=化学療法)
3.放射線

 ここで気になるのが、「医者は自分の好みで治療法を決めているのか?」ということ。医療ドラマで見るようなドロドロとした世界に巻き込まれて、自分の人生を左右されたくない。

 だが、中山医師は断言する。がんに関わるほぼすべての医者は、治療方針を定めた「ガイドライン」に従って治療を行う。医学的にしっかりと認められた、現在の最善の治療である「標準治療」を行うのだ。

 もちろん患者の意思をくみとって治療方針を変えることもあるが、ほとんどの医者はがんの種類や進行度合いに合わせて適切な標準治療を行う。むしろ行わないと大問題になってしまう。

■がんは放置しても治らない、ほぼすべての民間療法は効果がない?

 ここまでは、本書で解説されるがんに関する基礎知識だ。「がんの進行を表すステージとは何か?」「切れば治ると断言できない理由」など、割愛してしまった部分も多いので、詳しく知りたい人は本書を読んでほしい。

 ここからは本書のタイトルでもある「がん外科医の本音」をご紹介したい。まず「がんは放置すべきか?」という疑問について、中山医師は「根拠が弱いため信じるに値しません」と断言する。たしかに早期のがんであれば、ほっといても治ることもあるのだが「非常にまれ」。その患者さんのがんが放置して治るかはわからない。わけのわからぬ書籍や記事を真に受けて、がんを放置して手遅れになってしまった患者さんを何人も目にしてきた中山医師は、本書で苦々しさと怒りをあらわにしている。

 続いて、治る検証データのない民間療法やトンデモ治療に関して。中山医師は「補完代替医療(民間療法)のほとんどすべては、がんに効果はない、または効果が不明である」と言い切る。なかには「継続すると明らかに弊害が大きい」ものもあるようだ。

 しかし中山医師は、たとえ民間療法に効果がなくとも「とめたいけど難しい」という本音も吐露している。理由は、がんを治したいという患者さんや家族たちの希望や願いを頭ごなしに否定したくないからだ。この2つの項目を読んでいると、外科医のやるせない本音が伝わってきて心苦しい。

■がん治療において有名病院を選ぶ意味はあまりない

 もしがんになったとき、やはり頭に浮かぶのは、「マスメディアで紹介されている有名病院で治療してほしい」ということ。しかし中山医師は「書きづらい」と前置きしつつ、こう続ける。

 たとえ有名な病院、ノーベル賞受賞者を何人も出しているような大学の病院であっても、手術がそれほど上手くない外科医はいます。逆に、有名ではない病院でも、目を見張るような素晴らしい手術をする外科医はいるのです。この「手術の上手い下手」は、外科医同士でなければ絶対に分かりません。

 がん治療の手術において、有名な病院を選ぶ意味はあまりない。さらに抗がん剤や放射線についても、先述のガイドラインに従って行うので、どの医師が行おうとほとんど変わりないという。では、どのような基準で病院を選ぶべきか。中山医師は3つのポイントを挙げる。

1.そのがんの治療を専門にやっているか
2.病院の大きさはあるか
3.自宅からのアクセスはよいか

 がん治療は医者の中でも専門職。「がん相談支援センター」というサイトを見て、その種類のがん治療を専門に行う病院を見つけよう。そしてがん治療は、外科医・内科医・放射線科医・麻酔医・看護師など、様々なスタッフが関わる。多種多様なスタッフが揃う病院にかかるべきだそうだ。けれどもわざわざ有名病院を無理して選ぶ必要はない。「ある程度の大きさの病院であれば、どこでも受ける治療は同じ」なのだそうだ。

 医療が進歩して、早期発見の場合なら希望が見えるようになってきた。がんが根治するかもしれない。それと同時に、がんにかからないための予防策、がん特有の症状を見分けたり、早期発見して適切な対応をしたりする知識が必要であることもわかってきた。これらの情報を仕入れる備えの有無で、がん治療の明暗がくっきりと分かれてしまう。

 本書は、備えの本だと感じる。もし自分が、大切な誰かが、がんになったときどうすればいいか。どんな医者を、どんな医療を信じればいいか。それを易しく詳しく解説する。2人に1人が、がんになる時代だからこそ、ぜひ本書のがん外科医の本音を聞いてみてほしい。

文=いのうえゆきひろ