「桃太郎盗人説」の真偽は? 小学5年生の文部科学大臣賞受賞作品が単行本化

社会

2019/11/25

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『桃太郎は盗人なのか? 「桃太郎」から考える鬼の正体』(倉持よつば/新日本出版社)

 多くの小学校では「探究的な学習」の位置付けで「調べ学習」が行われている。今ではインターネットで何でも調べられる。体裁だけ整える調べ学習なら、簡単にできてしまうのかもしれない。しかし、本当の調べ学習に取り組もうとするのなら、ゴールまでの道のりは遠く、その分、深い学びができる。

 調べ学習の可能性を示す本『桃太郎は盗人なのか? 「桃太郎」から考える鬼の正体』(倉持よつば/新日本出版社)が注目を集めている。著者である倉持さんは、現在小学6年生の女子児童。小学5年生のときに取り組んだ調べ学習のコンクール(「図書館を使った調べる学習コンクール」)で文部科学大臣賞を受賞した作品が、書籍にまとめ直された1冊だ。

 調べ学習で重要視されるのは、テーマ設定だ。本書は、まずテーマがおもしろい。「桃太郎は盗人なのか?」。誰もが知る正義のヒーロー・桃太郎だが、一部で「盗人」疑惑が掛けられていることを知る人は多くない。その真偽を確かめるべく、倉持さんは全国の桃太郎を読み比べ、ついには江戸時代の文献にまでさかのぼり、各時代の桃太郎像をあぶり出して、自分なりの結論に至る。

 多くの人とおそらく同じで、倉持さんは桃太郎が正義のヒーローであることを疑わず、その疑惑を晴らすために、ひたすら「桃太郎」を追求する。地元である千葉県の図書館に始まり、岐阜県の図書館に足を運んだり、国立国会図書館や東京都多摩図書館に行ったりして、読み込んだ“桃太郎本”は、じつに200冊以上。内容のおもしろさや素晴らしさ以上に、この尽きることない疑問に取り組む姿勢が評価されて、「桃太郎は盗人なのか?」は誕生した。同年代の子どもはもちろん、大人が読んでもスリリングな、謎解きエンターテインメントに仕立てられている。

 さて、本書は、倉持さんが好きな桃太郎を4人の著名人が「おかしい点がある」と指摘していることを知るところから始まる。その4人とは福沢諭吉、芥川龍之介、池澤夏樹、高畑勲だ。特に福沢諭吉は「桃太郎は盗人だ」と激しく非難しているほどで、倉持さんはショックを受ける。しかし、倉持さんは国語の授業で学習した作品『おにたのぼうし』『わにのおじいさんのたからもの』『泣いた赤鬼』などに出てくる“よい鬼”を思い出し、福沢諭吉は嘘つきだと決めつけることなく、湧き出る疑問と興味から、ひとりで調べ学習を進めていこうと決意する。

 本書を読んでいくと、決めつけや思い込みが思考の可能性を狭めるもったいなさを思い知らされる。実際、いくつかの作品で描かれている怠け者の桃太郎や、きびだんごを半分しかやらないケチな桃太郎、単にカラスやトンビに「鬼退治に行け」と言われたから行った単純思考の桃太郎の存在を知らない人は、少なくないだろう。また、時代によって桃太郎像が劇的に変わっていくことも、あまり知られていないはずだ。調べ学習によって、豊富なデータが揃ったからこそ、倉持さんは比較推理と思考を掘り下げられた。決めつけや思い込みで「そんな桃太郎はいない」と思考を止めていたら、今回の成果にはたどり着けなかったのだろう。

 倉持さんは今回の調べ学習に取り組むにあたり、司書や先生などお世話になった多くの大人に随所で感謝を示している。倉持さんの元々の素晴らしい気質なのかもしれないが、生きた情報に当たることも大切にしている「調べ学習」によって、人間的にも成長できると考えられる。

 桃太郎は盗人なのか、そうではないのか。本書を読んで、あなたの答えを模索してもらいたい。

文=ルートつつみ