「地獄はひとりで見るから美しい」銀座サロンの慎太郎ママが説く「あなた流の幸せ」論とは?

社会

公開日:2019/12/7

『慎太郎ママの「毎日の幸せ探し」』(矢部慎太郎/講談社)

 政財界や芸能界、花柳界など、きらびやかな世界を生きる「一流の人々」が集う「パワースポットサロン」がある。東京・銀座の「サロン・ド 慎太郎」だ。そこでママとしてサロンを営む矢部慎太郎さんは、一流の人々の生き様を間近で見ることで「一流の在り方」を見出すようになった。

「一流の在り方」と聞くと、思わず「私には関係ない」と敬遠してしまうかもしれない。しかしよく考えてみると、一流だろうが三流だろうが、天才だろうが凡人だろうが、同じ人間。小さなことで幸せを感じるし、些細なことで不機嫌にもなる。どちらも毎日幸せを探していることに変わりないはずだ。

『慎太郎ママの「毎日の幸せ探し」』(矢部慎太郎/講談社)は、慎太郎ママという強烈なキャラクターの著者だからこそ提言できる「自分なりの幸せな生き方」を説く。悩み事を抱える人、恋愛に焦がれる人、人生を楽しく生きたい人のためのヒントが本書にいっぱいつまっている。

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■結婚できないから不幸になるわけじゃない

 恋愛は人生の重要なスパイスだ。幸せな恋を経て結婚できれば一番だろうが、人間誰しもそううまくはいかない。恋愛や結婚が思い通りにいかないと生活もよどんで見える…。そんな悩みを抱える人に、慎太郎ママはこう言い切る。

“恋愛も結婚も、所詮は気の迷い。気楽に楽しんで”

 身も蓋もないと思うかもしれないが、確かに恋愛に限らず物事が自分の思い通りに進むことなんてない。慎太郎ママも若い頃は好きな人に燃えあがった時期があったそうだ。しかし今になって考えると「好きは一瞬の気の迷い」と思うそう。恋愛はしてもいいし、しなくてもいい。結婚もその延長で考えてもいい。でもその“気の迷い”をめいっぱい味わって、人生の糧にすればいいはずだ。

 そう聞いても恋愛を諦めきれない人もいるだろう。そんな方にママは、「悩みを因数分解しましょう」と提案する。夜が寂しくてたまらなくて「彼氏がほしいなぁ」と思う人は、その時間を別の好きなことで埋めればいい。「なぜ結婚したいか?」と自問自答して、本当に結婚で心が満たされるか考えていくと、案外「周りの目を気にしていた」という本当の理由が見つかるかもしれない。

 たとえ大好きなパートナーにフラれても死ぬことはないだろう。結婚できないからすなわち不幸になるわけでもない。悪い男に捕まったと思ったら、あっさり捨てればいい。自分を愛して大切にしていけば、いずれきっとパートナーができる。すべては気の迷い。世間の決め事からいったん離れて、自分だけの人生を楽しむことが先決だ。

 

■向いている仕事を“座って”考えていても分からない

 悲しいことだが、人生の大半は仕事で埋め尽くされている。仕事が大好きという人ならばいいが、なんだか退屈していたり、自分に向いていないと思って苦しんだりする人も多いはずだ。

 本書には、読者から寄せられた悩みに慎太郎ママが回答する「お悩み相談」がある。そこで「自分に向いているもの」が何か分からなくて困っている読者が何人かいた。ママは彼らにこう回答する。

“「向いている仕事」なんて死ぬまでわからない。”

 何が自分に向いていて、どんな仕事に就けばいいかなんて、結果論だ。ママの知り合いに80歳を超えた日本舞踊の先生がいる。その人ですら「まだまだ修行中」と謙遜するという。だから若い私たちが答えを先に見つけるように「天職を見つけたい!」なんて、きっとおこがましいのだ。

 むしろ私たちに必要なのは、今すぐその重い腰を上げることだ。「何が向いているのかな?」と座りながら考えていては永遠に見つからない。習いごとでも趣味でも好きなことでも、なんでもいい。仕事に刺激がなくて退屈ならば、輝ける時間を自分で見つける。辛くて仕事を辞めたいならば、好きなことを仕事にする。そう考えるだけだ。

 ただし「好きな仕事をしつつ、今の暮らしを維持したい」というのは無理な相談。好きな仕事で稼げるようになるにはそれなりの時間もかかる。だからこそ成功したときの喜びもひとしお。人生の酸いも甘いも知る慎太郎ママだからこそ言える手厳しい回答に、きっと目が覚めるだろう。

 

■地獄はひとりで見るから美しい

 本書を読んでいて、なにより印象的だった言葉が2つある。その1つが「地獄はひとりで見るから美しい」だ。

 生きていれば悩みはいくらでも出てくる。自分で解決策を出せなくて誰かに相談することもあるだろうが、やはり自分以外は他人。悩み事について命がけで真剣に考えているのは自分だけだ。「大丈夫だよ~」という心ない応援にむしろ腹の立つ経験をした人もいるだろう。

 そんな人に慎太郎ママは、「本当の不幸は人に話して乗り切れるようなものではない」と悟りを促す。人に話せるうちは、ただの愚痴だ。この「地獄はひとりで見るから美しい」という格言は、事業失敗の経験があるサロンのお客さんの言葉だそう。一流の人だって地獄を見た経験がある。本当に辛い不幸こそ自分でこらえて飲み込んで、力強く前に進む「凛とした人間」でありたい。

 そしてもう1つが、「いい女は、いつだって優しい、忙しい」だ。皆さんはきらびやかに生きる一流の女優たちに対してどんなイメージを持っているだろうか? 慎太郎ママは、「彼女たちはいつだって一生懸命で、他人さまのことを考えて生きている」とつづる。

 例えば、歳を重ねても美しくかっこいい夏木マリさんは、途上国を支援するプロジェクトを展開しているし、女優のジェーン・バーキンさんは動物愛護や人権問題などの活動をしている。自分のため誰かのため全力で生きるからこそ、彼女たちは美しい一流女優であり続けるのではないか。

 いい大学を出て素敵な男性と結婚して可愛い子どもを産む…そんな型にはまった日本人像を窮屈だと感じる人も増えてきた。多様化する価値観に救われる人々がいる一方で、自分で自分の幸せを見つける必要も生まれてきたように感じる。

 だからこそ私たちが慎太郎ママに学びたいのは、幸せを探す方法だ。自分の幸せは誰にも頼らず、自分で決めなければならない。それが「一流の在り方」であり、幸せな人生を歩む一本道なのではないだろうか。

文=いのうえゆきひろ