“病気”“治る”という誤解――専門医が教える「発達障害」3つの事実

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更新日:2020/6/1

『誤解だらけの発達障害(宝島社新書)』(岩波明/宝島社)

 会社や学校に馴染めず、「生きづらさ」を抱えやすい発達障害。近年では世間的な認知度が高まり、インターネット上でも多くの情報を得られるようになった。

 発達障害について手軽に情報収集ができる一方で、ネット上には極端な意見や偏見、誤解を招きかねないコンテンツも多い。調べることで「もしかして…」という不安な気持ちを余計に強めてしまう人もいるだろう。

『誤解だらけの発達障害(宝島社新書)』(岩波明/宝島社)は、医学的な知識のない一般の人に向けて、発達障害の正しい知識や事実(ファクト)を分かりやすく解説した1冊だ。著者の岩波明氏は、主に精神疾患の認知機能障害や発達障害の臨床研究をおこなう医学博士。ベストセラーとなった『発達障害(文春新書)』(文藝春秋)の著者でもある。

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 本稿では誤解されやすい発達障害の基礎知識を、本書よりいくつか紹介していく。

発達障害は「治る病気」なのか?

 落ち着きがない、よくミスをする、コミュニケーション能力に問題があるなど、発達障害を漠然とした症状で捉えている人は多いだろう。発達障害は特定の病気ではなく、さまざまな発達に関わる疾患の「総称」である。

 発達障害のなかにはアスペルガー症候群を中心とする自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠如多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などさまざまな疾患があり、どのタイプに当てはまるのかを診断することが治療の第一歩だ。

 しかし、これらの発達障害は脳の機能の偏りによっておこる「生まれながらの特性」であり、風邪のように「治る」ものではない。そのため本書では発達障害を治療する意味を「発達障害のもつ特性と環境の関わり合いのなかで引き起こされるさまざまな問題を解決し、より生きやすくすること」としている。

 発達障害の原因は不明だが、これまでの研究で親の愛情不足や育て方の問題ではないことが明らかとされている。発達障害は「病気」でも「治る」ものではなく、環境や遺伝、その他の要因が複雑に関係して表れる「特性」として捉えることが大切だ。

「大人の発達障害」は子どもと何が違う?

 そもそも発達障害に「子ども」や「大人」という区別はない。発達障害は生まれつきの特性であり、大人になってから発症するものではないのだ。しかし最近になって「大人の発達障害」という言葉が広まったために、成人になってから発達障害になることもある、と誤解している人は多いという。

 確かに近年は企業のコンプライアンスを重視する傾向が強まり、従業員一人ひとりの行動についても細かにチェックされるため、発達障害の症状に悩む大人が増えてきているのも事実だ。ASDやADHDの人は、子どもの頃は見過ごされていても、より複雑な人間関係や環境に身を置く大人になってから、発達障害に気がつくケースも多い。

 発達障害は小児期から成人まで連続したものであり、成長によってその特性が変わることはないが、過ごす環境や対人関係によって生きづらさが変わる、といえるだろう。

病院で医師による診断を受けたほうがいい?

 年齢を問わず、発達障害の症状に目をつぶることは、不登校やいじめ、不安症やうつ病などの二次障害など、最悪の事態をまねく可能性がある。そのため診断は早期にできるほどいいが、実際は生きづらさの悪循環に陥ってから受診する人が多いという。

 診断の目的は「特性と環境の関わりのなかで引き起こされる生活上の困難を軽減し、生きやすくする」ことである。診断することで、「生活しやすい状態を目指す」ための治療が受けられ、周囲からのサポートも得られやすくなるなど、メリットは大きい。

 病院での診断には、いくつかの検査がおこなわれるが、最も重要なのは「医師による問診」である。診断には幼少時代に「特性」が現れているかの客観的な確認が欠かせないのだ。

 適切な治療とサポートを受けるためにも、発達障害は医師による診断を受けたほうがいいだろう。

「特性」を理解して「長所」に変えていく

 本書によると、生まれながらの特性は「障害」になる反面、その人の症状にあった対策や適切な環境を選ぶことで大きな長所や魅力にもなるという。

 確かに発達障害は「生きづらさ」の原因になる。しかしその特性を活かし、活躍できる場は、誰にでもあるはず。

 発達障害は本人と周囲が「生まれながらの特性」であることを理解した上で、直面している問題に取り組むことが大切なのだ。

 本書で発達障害にまつわるネガティブな誤解をとき、正しい知識を深めてほしい。

文=ひがしあや