会社で嫌なことがあっても盛り返せる力「レジリエンス」が、新しいビジネススキルとして注目される理由

ビジネス

公開日:2020/1/5

『ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] レジリエンス』(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部:編/ダイヤモンド社)

 心にダメージを受けても盛り返せる力を、「レジリエンス」という。もともとは心理学用語だったが、今、この「レジリエンス」がビジネスの上でも注目されている。採用や昇進の際の判定基準になってきているのだ。
 
『レジリエンス』(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部:編/ダイヤモンド社)は、仕事を進めるうえで、ポキっと折れてしまうことのない“しなやかな心”づくりを提案する1冊。心理学の専門書ではなく、ビジネス書として「レジリエンス」をタイトルにしたことが新しい。

 多くの人もそうだと思うが、私は仕事でミスをすればへこむし、会社の人間関係の悩みも尽きない。「よし、レジリエンスを身につけることができればさぞ優秀な人材になるだろう…?」ということで、その方法を探ってページをめくってみる。と、いきなり結論が目に飛び込んできた。

「レジリエンスは多くの選択肢や運動自由度の存在、環境の変化を味方にする敏捷性によって得られるもの

 ううむ、何やら難しいので、もっと簡単に考えてみることにする。

advertisement

 ひとつめのポイントは、「多くの選択肢や運動自由度の存在」。これは日頃から困った時のためのたくさんの解決法が用意してあり、自分でそれが自由に選べる状態にしておくといった意味でとらえられるだろう。

 私たちは、小さいころから「自立しなさい」と教育されてきた。自立というと、誰にも頼らず自分で何でもできることのように考えがちだ。しかし、「依存先の分散」や「依存先を増やすこと」も「自立すること」のひとつではないだろうか。いわば、ひとりで抱え込まない力、誰かに相談できる力。これこそが、強くしなやかな心「レジリエンス」を身につけるための土台となるだろう。

 会社で困ったことがあったらすぐに相談できる上司がいるとか、家族との関係で悩んだら相談できる友人がいるとか、病気になったら頼れる医師がいるとか、いざという時のために福祉サービスの窓口に顔を通しておくとか、ふだんからたくさんの人と繋がっていることが心の力になる。そして自分も、負担にならない範囲で周囲の人に協力する。そうすれば、人との繋がりはより強く温かいものになるだろう。

■会社で嫌な問題が起きた…その時レジリエンスがあると?

 次に、「環境の変化を味方にする敏捷性によって得られるもの」について。これは、人生を取り巻く環境は常に変化し続けるものであることを自覚し、不都合な変化には素早く対応するという意味だろう。例えば、会社で嫌なマウンティングにあった場合、ひとりで嘆き耐えるのではなく、すぐに上司や人事担当に相談するなどして問題をオープンにする。現状維持しようと我慢してはいけない。行動を起こさないと、嫌な環境はエスカレートする可能性が高い。会社に行きたくない、抑うつ状態、となってしまったら心が復活するまで時間がかかる。

 また仕事以外の場でも、「私はレジリエンス(=反応、対応、盛り返すぞの心)をもつぞ」と意識して過ごすのもいいだろう。家族や友人とも、自分をオープンにできるようなるべく「我慢しない関係」をキープしたい。具体的には、「失敗は隠さない、人のせいにしない、賢い人間だと見せようとしない、お礼と謝罪はちゃんとする」などをきちんと意識したい。

 本題から少し逸れるが、歴史上究極の「レジリエンス」を発揮したのは、何といっても第二次大戦中のアウシュビッツ収容所から生還した精神科医ヴィクトール・フランクルだろう。著書『夜と霧』に詳しいが、彼が生還できたのは、「戦争が終わったら強制収容所での心理状態を講義にしよう」と毎日意識したからだという。決して肉体的に強靭ではなく、忍耐力がずば抜けていたわけでもなかったと自身で語っている。

 彼は戦後日本にも訪れたが、ユーモアとウィットを忘れない柔らかな人柄だったようだ。「どうしようもない状況にあっても、変えようもない運命に直面しても、我々は人生に意味を見出せることを忘れるべきでない」という名言を残している。

「レジリエンス」は、現代においても注目されるに値する。人生は絶えず起こる変化の中を、悩みや困難にぶつかりながら泳いでいくもの――何が起きてもへっちゃらと言って過ごせるような人間になりたいものだ。本書は、そういった私たちの背中を押してくれる1冊になるだろう。

文=奥みんす