その演技法は危険…! 役者になるために生まれてきた少女の人気絶頂アクターストーリー
更新日:2020/1/21
「現実と芝居との境界が曖昧過ぎる」「あの娘は危険…」オーディションで才能を認められながらも落とされた少女の名は夜凪景(よなぎけい)。
『アクタージュact-age』(マツキタツヤ:原作、宇佐崎しろ:漫画/集英社)は異能の女優の成長譚だ。
ストーリーはすでに、爆発的な盛り上がりをみせており、単行本9巻までのシリーズ累計発行部数は200万部を突破(2019年12月時点)。『週刊少年ジャンプ』の看板作品のひとつと言っていいだろう。絶好調の単行本9巻までを読んでレビューさせてもらう。
■演技の才能があり過ぎる、夜凪景の物語
大手芸能事務所・スターズのオーディションで、女子高生・夜凪景が異様な芝居をみせるところからストーリーは始まる。
彼女の圧倒的な才能を見抜いた審査員が2人いた。世界三大映画祭全てに入賞している映画監督・黒山墨字。そして元女優でスターズの社長・星アリサだ。
景は過去の自分の感情を自在に現在に蘇らせる“メソッド演技”を行い、しかも極めていた。2回のオーディションで圧倒的な存在感をみせたものの、結果は星の一存で不合格となる。自分を見失うほど芝居に没入する景の演技は、その身を滅ぼす危険なもので、その異能を育てても、彼女の人生に責任を取れないと。
景はオーディション前にこう言っていた。
悲しいことや辛いことがあると
つい違う自分になろうとして
本当の自分を忘れてしまいそうになるでしょ?だから私達みたいな人がなるんでしょう? 役者に
黒山は星の言葉に耳をかさない。夜凪景は“本物”で、役者になるために生まれてきたと直感していたからだ。「ついに自分の撮りたい映画に出るべき役者を見つけた」と、嬉々として景を役者の道へ誘う。
景はまだ高校生だが、弟と妹の母親代わりになって生活してきた。そんなハードに生きる彼女の唯一の娯楽が、自宅にある映画をみることだった。繰り返しみていくうちに、景は役者の演じる感情に気づくようになった。そして過去の感情を思い出し表現できるようになる。メソッド演技は少女の現実逃避のたまものだったのだ。
しかし景は体験したことのない感情やシチュエーションを演じることができず、台本や演出通りの芝居もできなかった。黒山は彼女に芝居を教え、成長の場を与える。かくして異能の女優の才能は磨かれていく。
■まさに王道作品! 大いなる成長と、ライバルとの対決と
まずは1巻から3巻までをぜひ一気読みしてもらいたい。そこには夜凪景の役者としての成長と幸福が詰まっている。みどころは、景のライバルとも言うべき百城千世子(ももしろちよこ)との演技対決である。
千世子は“スターズの天使”の異名をもつ若手女優。自己を常に客観視してふるまい、きらびやかで圧倒的な華をもっていた。
役者としての能力も天才的で、5分を超える長ゼリフも軽くこなす。また自分がカメラに映るアングルを理解・意識して演技を行うこともできる。ただ一部の業界関係者と、景は気づいていた。千世子は努力によって天使の仮面をかぶっているのだと。
ふたりの共演作品、デスアイランドの撮影現場は、景の役者としての異能さに呼応するかのように、ハイレベルなものになっていく。
景の異質な芝居は、どの現場でも賛否がわかれる。カオスをつくり出し、周りの役者に影響を与え、やがて作品にかかわる人間たち全てを変化させていった。
つつがなく作品を成功させることに心血をそそいできた千世子もまた景を認め、変わっていく。台風が直撃する悪コンディションの中、景と千世子によるラストシーンの撮影が開始された…。
本作は『週刊少年ジャンプ』で異質とみられることもあった。確かに芝居がテーマで女優が主人公、というのは少年誌では珍しいかもしれない。ただ内容は間違いなく王道だ。
才能をもった主人公が情熱をもって努力し、仲間をつくり、ライバルたちと切磋琢磨し、世界を変えていく。
メジャー感があり、雑誌のど真ん中を張れるストレートな物語なのである。
なお最新の9巻では景と千世子のWキャストによる舞台・羅刹女編がいよいよ佳境に。天使の顔を捨て、感情を燃やすようになった千世子との対決が再び始まるのだ。
■少女は女優となり、幸福な自分を獲得する
物語の序盤は、景の感情表現が少なく、人間味が薄いようにも感じられる。「才能はあってもまともな生活ができないぶっ飛んだ女優…?」などと、星社長でなくとも心配になる。
だが大丈夫だ。本作は異能の女優が描かれているだけではない。未成熟な少女がその能力で自分を獲得していく幸せで美しい物語なのだ。
景は演技力と、作品を共につくりあげる仲間たち、芝居から戻ってくる場所も手に入れていく。星社長の危惧も杞憂に終わるだろう。最後に黒山のセリフを引用して終わりたい。
思い出させてやるよ
本物の役者って奴を
この世界でしか生きられない人間の幸福を
文=古林恭
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