「今月のプラチナ本」は、絲山秋子『御社のチャラ男』

今月のプラチナ本

2020/3/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『御社のチャラ男』

●あらすじ●

美容や健康のためのオイル、ビネガーなどの商品を扱うジョルジュ食品に勤める三芳道造部長。見栄っ張りで、どこかいい加減、ノリが軽やかな彼は社内でひそかに“チャラ男”と呼ばれていた。「チャラ男って本当にどこにでもいるんです。一定の確率で必ず」。世代も立場も異なる彼のまわりの人々が彼を語ることで見えてくる、この世界と私たちの「現実」とは―。すべての働く人に贈る、“会社員”小説。

いとやま・あきこ●1966年東京都生まれ。2003年に「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞。04年には「袋小路の男」で川端康成文学賞を、05年には『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した。06年、「沖で待つ」で芥川賞、16年、『薄情』で谷崎潤一郎賞をそれぞれ受賞。その他の著書に、小説『逃亡くそたわけ』『エスケイプ/アブセント』などや、エッセイ『絲的メイソウ』『絲的サバイバル』などがある。

『御社のチャラ男』書影

絲山秋子
講談社 1800円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

ぼくは会社が好きなのかもしれない

チャラ男は言う。「ぼくは会社が好きなのかもしれない。仕事が好きという意味ではない」。会社というのは仕事場なのに、仕事とは何なのかわからなくなってくる。構成員はそれぞれ必死だが、横から見るとたいてい見当違いだ。本書ではさまざまな人物が会社とチャラ男を語るので、見当の違いぶりも多種多様。こんな人いる、こういう人も、そしてこれは自分だ……読みながら愕然として、でも本書は会社の外、会社の後、があることも示してくれる。シビアでいて希望をくれる小説。

関口靖彦 本誌編集長。純粋な善人も悪人もいない、完全な成功も失敗もない。何もかもグレーな世界をさまよう会社員の姿は、人類全体の比喩にも見えてくる。

 

チャラ男にも共感できてしまうのがスゴイ

どの登場人物にもその人の立場があって、その場所からいろんなことを思い、感じている。もちろんチャラ男も。かなちゃんにも三芳部長にも佐久間さんにも、ちょっとずつ共感し、ちょっとずつ、あぁ~って思う。そんなくだりがいくつも重なって、社会の在り方がふんわり立ち上がって見えてくる。各章ごとに、語り部となる登場人物が変わるのですが、誰かひとりに肩入れするのではなく、その全員にちょっとずつ共感してしまうんですよね。人って憎めない、と思わせてくれる一作。

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チャラかろうが、その一言が人生を決する

チャラ男と呼ばれる三芳部長、意外に歳くってんなと思った。私の中でチャラ男と言えば、高校時代に同じクラスだったTくんだ。イケメンのサッカー少年で、勉強も出来て人当たりも良い、でも孤高な同級生だった。私はそんな彼のことを観察していた。自分とは遠い存在だったが、かっこよかったのだ。本作で三芳について語る同僚たちも、チャラ男というわかりやすいレッテルがないだけで、それぞれ魅力的な変人だ。そんな風に当時から思えていたら、と記憶がリフレインする連作だ。

川戸崇央 そんなTくんと卒業を控えた雪の日、バスに乗り合わせたことがあった。二人で話すのは初めてだったが、その時彼がかけてくれた言葉、チャラかった。

 

「タイトル買い」は正解だった

書店で思わず〝ジャケ買い〟ならぬ〝タイトル買い〟。めちゃくちゃキャッチーな題名だ。さらに各章扉は、ユーモアが効いていて楽しい。「チャラ男って本当にどこにでもいるんです」「外資系でも公務員でもチャラ男はいます」。年齢も性別も立場も違う人間が集まっているのが会社だ。そこに属する人のいくつもの目線から同じ「チャラ男」を描くことで、それぞれの価値観や時代性が浮かび上がり、ときに鋭い風刺が描かれている。自分もチャラいので、気を付けなきゃと思った(笑)。

村井有紀子 お目当てのライブを見るために、夏に何カ所か海外に行く予定にしている。エアーやチケットをおさえたり、いま絶賛手配中。楽しい……!

 

おとなになったらわかること

会社というのは不思議な場所で、もちろん仕事のためにあるのだが、実は仕事以外のいろいろによって支えられていたりする。本作はある会社における「仕事以外のいろいろ」が高解像度で描かれた会社小説だ。営業、総務、システム担当……。みんな「チャラ男」を冷笑的に批評する。しかし次第に、〝自分とチャラ男は違う〟と思うことが、彼らの何かを支えているように見えてくる。いびつにバランスを取りながら、それぞれ自分のやりかたで戦って、一つの船を漕いでいく。だから会社はおもしろい。

西條弓子 とはいえ、すべて虚しくなる夜もあるのが社会人。そんな日には、虚無と戦う大人に寄り添うマンガ『なんだこの人生』をどうぞ。詳細31ページ!

 

山を下りた先へ

仕事ができるわけではないのに世渡り上手な中年「チャラ男」への苛立ち、嫉妬、見くびり。その存在を受け入れていた会社という組織のいびつさが、だんだんきしみだしてくる。『群像』掲載時期と連動した平成から令和へ移りゆく時代の空気や、20代から60代まで老若男女の登場人物たちの考え方が、鋭すぎる観察眼と抜群のユーモアで凝縮されている。短い章ごとに語り手の価値観ががらりと変わり、自分の思考のクセが次々とリセットされていく感覚は、ちょっとほかでは味わえない。

三村遼子 「石北会計事務所」「びっくりドンキー」「それがどうした」。作中の思わずつぶやきたくなる言葉の数々。どんな文脈で使われるかも要注目です。

 

5年ごとに思い出したい一冊

どこのコミュニティにも必ずいる、ちょっと困った人。本書はそんな人物=チャラ男を主軸とした群像劇だが、チャラ女でもぶりっ子でもクソ男でもなく「チャラ男」のセレクトに意味を感じる。(本人に素質があったにせよ)チャラ男にならざるを得なかったのは、過去の日本社会の常識や慣習のせいなのではないか。だからこそ、現代日本の常識で育った同僚(そして読み手も)が彼を蔑視してしまうのだ。時代に合わせて自分をチューニングできなければ、生きていくのは難しいのかも。

有田奈央 先月の関口さんのコメントに触発され、わたしも本書を編集部でキャスティング。有田=一色。手の平返しの速さが激似すぎて爆笑。

 

〝会社員〟という役割

〝チャラ男〟と呼ばれる三芳部長、そして彼を語る人たち。本書を読んでいると、「こんな人いるよなぁ」と、つい身近な人を思い浮かべ、それぞれの立場、役割を持つ彼らに共感してしまう。批評される三芳部長の「君たちはぼくを敵視するけれど、ぼくのことなんて実際には見ていない。ぼくに悪役をくれただけのことなんだ」という言葉も案外本質的なことで、私たちもまた組織の中で与えられた役割を日々演じているのだろう。働き始めてもうすぐ1年。私も〝会社員〟になったのだなぁ。

前田 萌 最近の週末の楽しみは、実家に帰省し愛犬と遊ぶこと……! あの至福の時を過ごせるのであれば、犬アレルギーになど構うものか! 愛は強し!!

 

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