いい匂いのする紳士的なイケオジが見せる“獣”なギャップがたまらない! 『45歳、おじさまは不器用な獣。』

マンガ

公開日:2020/3/13

『45歳、おじさまは不器用な獣。』(竹輪つぼみ/笠倉出版社)

 恋愛マンガで必須なのが、ありそうでないシチュエーション。たとえば営業や接客の仕事をしていて、物理的に出会う人の数は多くても、それが本当の意味の“出会い”に繋がることはそうそうない。片思いしていた同僚の結婚を聞かされ落ち込んでいるときに、仕事で接客したイケオジ(イケてるオジさん)とたまたま出会っていい感じになってしまう…なんて『45歳、おじさまは不器用な獣。』(竹輪つぼみ/笠倉出版社)みたいな出来事は、現実にはもちろん、ほとんど起きない。でもこの“ほとんど”というのがミソで、絶対にありえないわけではないからこそ、読者は物語に感情移入し、ときめくのだ。

(C)竹輪つぼみ/笠倉出版社

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 そもそも“大人の男”じたいが、わりとファンタジーだ。携帯ショップの店員である主人公のしほり(27歳)が出会ったのは、眼鏡をかけた、渋くてダンディな泉谷。45歳のわりに太っていない、どころかけっこう鍛えられた身体からはほのかにいい匂いがしていて、食事の誘い方もスマート。泣いている女性を慰めるときも、最初はあくまで下心のない紳士として、でも雰囲気が“アリ”になったら強引に、優しいけれど力強く押し倒す…って、そんな出来すぎた男、どうせ既婚者の遊び人だろ!? と思ってしまうがバツイチ。しかも元妻とは政略結婚だったこともあり、初々しい恋愛感情を誰かと共有するのは彼もはじめて。電話番号を交換するだけでそわそわ、海辺で手をつないで歩くだけでうきうき。つきあうことになったら「恋人」という響きに浮かれてしまう。でもやっぱり大人だからそれだけじゃ我慢できなくて、年甲斐もなくしほりを求め続けてしまう。その紳士的な顔と獣的な姿のギャップが最高にかわいくてたまらない。

(C)竹輪つぼみ/笠倉出版社

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 覚えたての10代のように求めあう2人の激しさや甘さに思う存分浸れるのは、どちらも自立した大人だからこそ。たとえば元妻と暮らす息子への気配りを、しほりも泉谷も決しておろそかにしないし、個人的には山登りデートにガチの登山服を着てきたしほりと、いい雰囲気になっても外だからと寸止めで終える泉谷の好感度が高すぎて、ますます応援したくなる。どんどんいろんな障害を乗り越えて、そのつど激しくなる営みを見せてほしい、と思ってしまう。

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(C)竹輪つぼみ/笠倉出版社

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 ちなみにしほりは、片思いしていた同僚とは一度だけ関係を結んだことがある。以来ずっと「なかったことにしてほしそうな困った笑顔」を向けられており、それでもほのかな期待を捨てきれずにいたところへ、彼の異動とずっと付き合っていた彼女との結婚報告。祝いの席でも困ったように微笑むばかりだったこの男、しほりは恨み言ひとつ言わないが、なかなか厄介というかズルい男なのではと思われる。ので、この先にもしかしたら、ふたたび現れてしほりを誘惑するような展開があるかも…。むしろぜひとも誘惑していただき、しほりを譲るまいと毅然とした態度に出る&年甲斐もなく嫉妬していろいろ激しくなっちゃう泉谷さんを拝ませていただきたいものである。

文=立花もも

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