『週刊文春』人気連載の伊豆ネイチャーマンガ『日々我人間』第2巻! 「無事発売された」とファンが安堵する理由とは

マンガ

公開日:2020/3/22

『日々我人間』(桜玉吉/文藝春秋)

 3年ぶり! 桜玉吉氏の『日々我人間』(文藝春秋)の第2巻が発売された。2013年の9月から週刊文春にて、細く長く連載中の本作は、ゆるりと暮らす初老のマンガ家、玉さんのノンフィクションコミックエッセイであり、彼のファンにとっては生存確認の記録である。

 2016年11月に発売された第1巻の内容は、隣人(?)たちに悩まされる狭い漫画喫茶での日常から、伊豆の山荘への移住だった。今回の第2巻も引き続き、完全に居を移した伊豆での毎日を描いている。おもしろおかしく、どこかせつなく、そして“妬みそねみ”を交えたおなじみの玉吉節で、である。

 連載300回を迎えた本作。すっかり伊豆ネイチャーマンガ家となった桜玉吉氏自身についても解説しつつレビューしていこう。

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元気で何より! ファンに愛され続けるマンガ家、桜玉吉とは

“桜玉吉”と聞いても、ひょっとしたらわからない若人もいるかもしれない。なので、まずはかんたんに解説する。

 まず彼はギャグマンガ家だ。1980年代から1990年代にかけて、実在のゲームを題材にした『しあわせのかたち』(KADOKAWA)という作品を連載。人気を博した。

 その後、自分をさらけ出しまくった日記のようなエッセイのようなマンガを描くようになる。女性問題、会社設立、伊豆に家を購入するなど、赤裸々すぎるエピソードを独特の私小説的な作風で描き、濃いファンを掴んでいった。途中、作風が不穏になり、連載が突如終了したこともあったが、今は本作など、伊豆の山荘暮らしの日々をつづった作品を発表している。

 なお玉吉ファンは、作品を氏の生存確認としている。過去にマンガが描けなくなったことがあるため、新刊が出ると「玉吉! 生きてた!」と安心するのだ。

 かくいう本稿のライターも、書店で新刊をみつけて購入するたびに、玉吉好きな友人に連絡し、安堵の気持ちを分かち合っている(これって特殊かな…と思っていたが、あるとき作品レビューで、購入者の多くが生存確認という言葉を使っていることを知り、笑ってしまった)。

 桜玉吉氏はファンから愛され続け、見守られているベテランマンガ家なのである。

日常を玉吉節で鋭く描く…どっこい生きている伊豆の山

 第2巻は伊豆での生活の3年分にあたる、第151回から記念すべき第300回、さらに『週刊文春エンタ!』掲載分を収録している。

 なお中年男性が田舎暮らしに悪戦苦闘するドキュメント…という感じではない。繰り返すが、妬みそねみを交えて、笑える日々の記録をつづっている。東京、漫喫、伊豆と、場所は変わっても、本質的には変わっていない。ここでは本稿のライターが特に個人的に楽しめた、おすすめのエピソードを紹介する。

第155回…“漫画家不倫報道”にビビる。掲載誌は週刊文春なのだ。
第158回…温泉回。よく行く近所の温泉では事件がいろいろ起こりがち。
第166回…伊豆のコンビニでの小さな出来事。ここもさまざまな人々が行きかい、何かが起こる。
第172回…山での暮らしを切り取った回。伊豆ネイチャーマンガ家の面目躍如。
第192回…桜玉吉と野生動物たちとのあくなき戦いの記録。最大のライバル、ムカデとの戦いは永遠に続くのか。

 繰り返し描いているのは、温泉や地方のコンビニを舞台にしたエピソード。そして野生動物とのバトル。もはや完全に伊豆の山暮らしのお約束だ。

 他にもおなじみの子供の頃の記憶(いつも思うが、玉さんは記憶力がすごい…よくあんなにいろいろ覚えていると感心する)。成人した娘さんが会いに来る話など、ファン歴の長い方なら「読みたかった!」と思えるエピソードが目白押しである。

 そして長年の盟友・O村こと奥村勝彦氏も登場。連載300回突破記念の“対談 桜玉吉×奥村勝彦”も巻末に収録している。

 私は「相変わらずだな、カツヒコさん」とほくそ笑み、ふたりとも元気でよかった…と安心した。

老いても消えていない! 読もう!日々我人間!

 マンガ家は「消えた?」と思われがちだ。だが桜玉吉氏はまだいる。正確には伊豆にいる。しかも近年は本作を休まず描き続けており(週刊連載で!)、じゅうぶん精力的だ。2019年にも『伊豆漫玉ブルース』(KADOKAWA)を出している。

 絶対的な執筆量が少なく、単行本の発売時期が読めないところがあるが、マンガ家としては老いても益々壮(さか)ん、なのだ。

 最後に書きたいから書かせてもらう(元ネタがわからなかったら「読もうコミックビーム」で検索してください)。

 読もう!桜玉吉! 読もう!来年2021年に還暦を迎えるマンガ家の生きざまを!

文=古林恭

※ 日々我人間1巻収録のエピソードはこちらで試し読みできます。
//ddnavi.com/serial/hibiwareningen/
※ 桜玉吉氏とその作品についてはこちらで詳しく説明しています。
//ddnavi.com/news/180222/a/