「立てよ、国民!」の演説で、なぜジオン国民は奮い立ったか? 演説分析家が解き明かす『機動戦士ガンダム』の演説テクニック

文芸・カルチャー

2020/3/28

『『機動戦士ガンダム』の演説に学ぶ人心掌握術』(石井誠、高村泰稔:著、川上徹也:解説、サンライズ:監修/集英社)

 2019年に初放送から40周年を迎えた人気アニメ『機動戦士ガンダム』。現在でも新作アニメが製作されるほど熱狂的な支持を集めているが、その理由はどこにあるのだろうか。もちろんさまざまな理由が存在するのだが、そのひとつに「リアルさ」というものがあると思う。そしてその実証として、面白い書籍が登場した。『『機動戦士ガンダム』の演説に学ぶ人心掌握術』(石井誠、高村泰稔:著、川上徹也:解説、サンライズ:監修/集英社)では、『機動戦士ガンダム』の世界で行なわれた「名演説」を専門家である演説分析家・川上徹也氏に解説してもらい、その有用性を検証している。

 本書は『機動戦士ガンダム』でいう「宇宙世紀」の時代で、『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』から『機動戦士ガンダムUC』までの間に作品内で行なわれた演説を取り上げている。本書に掲載されている年表でいえば「U.C.0068」から「U.C.0096」という時代だ。この間に多くの演説が行なわれているが、どのような分析がなされているのか著名な演説をピックアップしてみよう。

ギレン・ザビのガルマ・ザビ国葬時における演説

 宇宙世紀0079年10月4日、ジオン公国のガルマ・ザビが戦死した。ガルマの兄であるギレン・ザビは国葬を執り行ない、その壇上で国民に対し戦意高揚を目的とした演説を行なったのである。川上氏は「悲しみを怒りに変えて、立てよ、国民よ!」という有名なフレーズを挙げて、国民の悲しみを怒りに転化する手法を評価する。氏によれば実際の政治でもよく使われる手法だという。例えば2001年9月11日のアメリカ同時多発テロで、アメリカのブッシュ大統領は「テロリストの行為は、鉄筋は壊せても、アメリカ人の鉄のような決意を損なうことはできない」とテロの悲しみを国民の戦う決意へと転化させた。その結果、50%を下回っていた大統領の支持率は90%以上に上昇することになるのである。

シャア・アズナブルの「地球寒冷化作戦」時における、自軍への出撃前の演説

 宇宙世紀0093年、地球に隕石を落として地球人類を粛清し、「核の冬」により地球を寒冷化させる「地球寒冷化作戦」を実行に移したシャア・アズナブル。自軍に対して自らの行為の正当性を訴え、将兵たちの士気を高めるために演説は行なわれた。泣かせどころとしては、やはり「そして私は、父・ジオンのもとに召されるであろう!」というフレーズだろうが、この演説のポイントは別にあると川上氏。演説でシャアは「人類が絶対に戦争を繰り返さないようにする」ために、「地球圏の戦争の源である、地球に居続ける人々を粛清する」と語っている。この「戦争を繰り返さないために戦争をする」というロジックも、現実によく見られる。本書ではアメリカのウィルソン大統領を例に挙げる。彼は第一次世界大戦に参戦しないことを公約に当選したが、後に「戦争を終わらせるために戦争に参加する」と演説してドイツに宣戦布告したのである。大義名分がなければ戦争参加への理解が得られない中で、このロジックは国民を納得させる上で非常に有効だったといえるだろう。

 本書で川上氏は「人の心を大きく動かした演説には『ストーリーの黄金率』という原則が使われている」という。簡単にいえば「人の心を動かすツボを押さえた演説」ということだ。そして『機動戦士ガンダム』の演説にも、それは当てはまる。そういったリアルな部分が支持を受け、40年続く人気シリーズとなったのだ。「ジーク・ジオン!」と叫んだギレン・ザビの演説に心酔したのはジオン国民だけでなく、視聴者も同様だったといえそうである。

文=木谷誠

この記事で紹介した書籍ほか