『Number』1000号は、史上最多32回目となるイチローが表紙! 変わりゆく時代に残したいおすすめ5冊とは

スポーツ・科学

2020/4/4

『Number』1000号(文藝春秋)

 スポーツ好き、本好きなら知らない人はいないだろう。日本初のスポーツ総合誌『Number』(文藝春秋)。携わってきた人物には、村上春樹、沢木耕太郎、椎名誠、角田光代など、錚々たる作家の面々も居並ぶ。そんな歴史ある同誌が、創刊40周年を迎え、1000号を発刊した。世の中が新型コロナウィルス一色だけに、オールスターのように様々なスポーツのトップ選手たちが登場する同号は、いっそう華やかに映える。

 表紙を飾るのは、これで同誌史上最多の32回目となるイチロー。人差し指を立て、「ナンバー1」と示す力強いカバー写真だ。「読むスポーツ誌」である同誌は、1枚1枚のショットも独創的で印象深い。付録には「ナンバー1 アスリート40の金言」というフォトブックがついているが、これも心憎い。名だたる選手たちの印象深い写真と金言集は、どこを開いても心躍る保存版だ。ちなみに、思わず頬が緩んだ頁は、ディエゴ・マラドーナで、金言は「オレの後継者だって? メッシにそんな重荷を背負わせるんじゃないよ」。

『Number』999号

 勝ち負けが語られることの多いスポーツだが、同誌は人間としてのアスリートや、文化や娯楽としてのスポーツを、時代とともに切り取ってきた。同号の一つ前、999号の特集は「名将 野村克也が遺したもの。」。2月に亡くなったばかりの野村氏について、知られざる逸話が満載だ。ノムさんらしい、ユーモアと知性あふれる物語や思いあふれる野球人の惜別メッセージの数々にたくさんの横顔の写真が添えられていて、読むほどにクスッとしながらも学ばされ、時にじんと胸に沁みる。

 与えた影響力の大きさは、計り知れない。個人的に思い出されるのは、2016年に『野村の遺言』(小学館)を出版したとき、初めて独占インタビューをした日のこと。それはもう緊張しながら入念に準備をした。何度も同書を読み返し、付箋だらけにして。多くの質問も用意したが、いざ対面するとほとんど質問する間もなく、予定時間を大幅にオーバーして、かけがえのない話を語り続けてくれたのだ。「一生懸命に仕事をしていれば、必ず見てくれる人がいる」とは、同氏が若き日を振り返った言葉だが、私にも語りかけてくれた金言だったと今も大切にしている。

『Number』は、スポーツ専門誌ではなく、スポーツ総合誌と呼ばれる。時々で旬なアスリートやチーム、スポーツを特集にするだけでなく、かけあわせるテーマも多岐にわたり、スポーツの枠にとどまることなく、幅広い視点から伝えているからなのだろう。

 いつの時代もスポーツ好きを超えて多くの読者を捉えてきた同誌。特にここ10年で時代はとんでもないスピードで変化した。このコロナ禍以降も劇的に変わるのだろう。そこで、節目としてここ10年のうち特におすすめの5誌をご紹介したい。

■おすすめ1. 『Number』761号(2010年9月2日発売)
表紙…長谷部誠「アスリートの本棚。読書が彼らを強くする」

『Number』761号(文藝春秋)

「読むスポーツ」となる最大の源泉はアスリートたちの言葉だが、そのさらに源に迫ったとも言えるテーマだ。長谷部といえば、日本のキャプテンというイメージだろう。三度のワールドカップで日本代表キャプテンを務め、世界中の審判を相手に納得の行かない判定とあれば、果敢に抗議をしたり、また一触即発の場面では間に入ってなだめたり。大舞台で体の大きな外国人を相手に、臆することなく渡り合う姿は心強い主将そのものだった。

 そんな長谷部の愛読書は、白洲次郎の本。熱心に読んだという『白洲次郎 占領を背負った男』(北康利:著)について、「日本がアメリカに戦争で負けて頭が上がらない中でも、言うべきところは言わなければ駄目になってしまうってことをいち早く感じて、ひるまずにGHQと渡り合った。そういう勇気あるところに憧れた」と語っている。

 今もオピニオンリーダーとして注目される為末大は、読書の力が競技力に直結するかどうかを尋ねられ、「ある」と明言。書籍の守備範囲もトレーニング論のような実用書、『ダーウィンの進化論』のような自然科学本から、ニーチェや老子など古今東西の哲学書まで、幅広いことが詳らかに。他にも様々な選手がどんな本から何を得ているのかが集められた本号は、10年経った今だからこそ、より興味深く答え合わせのように楽しめる。

■おすすめ2.  『Number』770号(2011年1月13日発売)
表紙…イチロー 「僕はこんなものを食べてきた。アスリート最強の食卓」

『Number』770号(文藝春秋)

 こちらの表紙もイチロー。箸を片手に焼き肉を食べているカバー写真は1000号とは対照的。食とアスリートの関係の深さを垣間見ることができる特集号だ。

 そもそもアスリートの食事風景は、およそプライベートなので知られていることは少ない。例えば、イチローといえば、今もカレーを思い浮かべる人も多いが、実際はカレーも含めて、どんなものをどう楽しんでいるのかが明らかに。また、鋭い感性で心情を表すイチローは、食べ物について語っても含蓄がある。「どんな世界であっても、できあがったときに人が感動するものは芸術品だと思っています。それは歌にしてもお笑いにしても、僕らのプレーもそう」。そう言って、寿司の名店「すきやばし次郎」の店主である小野二郎さんの寿司をアートと表現している。

 ボクシングの長谷川穂積は、バンタム級8度目の防衛戦に臨んだ時の減量の凄まじさとルーツである「オカンの味」について明かす。試合が近づくにつれ過酷さを増す減量では、「1時間トレーニングしても、わずか50gの汗しか絞り出せない。水気を失った肌は乾燥し、足の裏がひび割れて歩くだけで痛みが走った」という衝撃の事実も。一方で、友だちも食べられなかったというほど味つけが濃かったオカンの手料理のエピソードでは、王者だけでなく、普通の息子である側面にホッとさせられる。

 長く走るようなスポーツでは、スタミナを発揮するために本番直前は主に炭水化物を摂る。1時間半から2時間ものレースを戦うドライバーの小林可夢偉の場合、血液検査で小麦粉はだめで米が良いと判明。だから、レース前は強制的に3食白米ということで、レース後はパスタを心置きなく食べるのだそう。他にも、食をテーマにした同号は、様々なスポーツ選手ならではの裏話が詰まっている。

■おすすめ3. 『Number』930号(2017年6月29日発売)
表紙…清原和博 「告白」

『Number』930号(文藝春秋)

 雑誌メディアの新しい表現方法だと衝撃を受けた。稀代のプロ野球選手だった清原が、覚醒剤取締法で逮捕された後、有罪判決となり、世論はまだまだ許しがたいというムードに満ちていたなか、同号は発売されたのだ。清原本人の独占告白にはじまり、彼へのエールが詰まっている。

 日本では、薬物依存に陥った著名人に対するバッシングが強く、排除すべきという考えから“蓋”をされがちだ。だが、同特集は肯定も美化もすることもなく、現在地と向き合う清原の詳細な事実やそれを支える周りの人たちの様子や言葉を伝える。世間一般に知られた「番長」ではなく、「優しく真面目な人」としての清原の本性もうかがえる。

 私たちはスター選手となると、突出するほどに一目置いてしまうが、スター選手も弱い面を持った人間であることに改めて気付かされる。死ぬほど後悔している依存症患者のありのままの姿だ。どこか別の世界のことのように考えるのではなく、身近な誰かの話と考えれば、そうした人々が人生をやり直すための社会のあり方を考える機会ともなる。

「野球人生で一度も代打を出されたことがなかった」という清原は、引退後に虚無感と寂しさに押しつぶされるように薬物に手を出してしまったという。過ちは拭えなくとも、選手としての過去と一個人としての未来は社会で抹殺してはいけない。そうしたメッセージも込められた同号は、とても重い一冊に思う。

■おすすめ4. 『Number』920号(2017年1月26日発売)
表紙…マイク・タイソン 「最強は誰だ。」

『Number』920号(文藝春秋)

 22年ぶりのボクシング特集で、「日本ボクシング史上最強王者」と注目される井上尚弥が、その道を邁進しはじめた時期の一冊。しかも、読者が井上を「現役最強ボクサー」1位に選出したにもかかわらず、伝説的な最強王者であるマイク・タイソンを表紙に据え、その次にはアジア初の「本物のチャンピオン」とされたマニー・パッキャオを特集しているところに、ボクシング愛が感じられる。

 安易に日本人スター選手を持ち上げるのではなく、ボクシングの歴史や歴代チャンピオンが考える強さなど、「本当の強さ」について、幅広く“本物”の視点が語られていて、井上をきっかけにボクシングを見るようになったファンにも読んでもらいたい一冊だ。

 1000号の付録にもあるタイソンの言葉は、「僕は運に恵まれた。殺人者ではなく格闘家になれたのだから」。人間としてのアスリートを描くことに長けた同誌は、一試合で10億円稼ぐタイソンの獣のような素顔、いじめられっ子の孤児だった横顔、そして栄枯盛衰のハイライトを伝える。ドラマが過ぎる半生を送った最強王者の物語は、フィクションを超えたノンフィクションだ。

■おすすめ5. 『Number』997号(2020年2月13日発売)
表紙…桑田佳祐 「響け!音楽とスポーツ」

『Number』997号(文藝春秋)

 サザンオールスターズの桑田佳祐とコラボした音楽をテーマにした特集号。1978年から40年以上、新曲を生み出し続けている桑田さんの曲を愛するアスリートは多く、元プロボウラーで本人と親交も深い矢島純一から巨人の四番・岡本和真まで、老若男女がサザンの曲と繋がってきたことがわかる。

 中日OBの名バッテリーでサザン好きという山本昌と谷繁元信にサザンの曲で打線と投手陣を組んでもらった企画も。全国の野球ファンでサザンファンが、ああでもないこうでもないと語り合える特集だ。私も大ファンなので、やはり最初は「東京VICTORY」じゃない? と考えてみたり。

 ファンの心をつかんで離さない音楽は、スポーツと親和性が高い。アスリートは気分を高めるため、会場を盛り上げるために音楽で演出するし、サザンも曲に合わせてステージでスポーツの名場面をスクリーンに映し出したり、桑田さんはプロレスやボウリングのマネをしたりして、ファンを楽しませる。

 音楽もスポーツも生で観戦できないのがもどかしい毎日だが、今もさまざまなアスリートや文化人が人々を勇気づけている。いつもより読書の時間が増えた人は、『Number』を読み返してみると、終息したあとのスポーツがより楽しく観戦できるはずだ。

文=松山ようこ

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