人の真のポテンシャルを数値化し、採用厳選や抜擢に有効活用する「HRプロファイリング」とは?

ビジネス

公開日:2020/6/19

『HRプロファイリング 本当の適性を見極める「人事の科学」』(須古勝志・田路和也・鈴木智之/日本経済新聞出版)

 早期離職や次世代幹部候補の不在。部下を与えた途端に失速する社員やクビにならない程度に力を抜いてぶら下がる社員の増加。このような現象が一向に改善されないばかりか増加傾向にある中、企業はコロナ・ショックに直面した。

 しかし企業は、先読みできない外部環境の中でも、生き残りをかけ、業績を向上させていかなければならない。経営戦略に基づく組織能力とは何か、その組織が必要とする人財はどのような要件なのか。これらを明確にし、採用・育成、配置・抜擢を成功させていくにはどうすればいいのか。

 その答えは「戦略人事が真に有効な科学を用いることにある」と説くのが、『HRプロファイリング 本当の適性を見極める「人事の科学」』(須古勝志・田路和也・鈴木智之/日本経済新聞出版)だ。

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「戦略人事」は、「経営陣が立てた経営戦略を実現するために必要となる人財を供給し続けること」をミッションとする。つまり、経営戦略を実現できる優秀人財の卵を見極めて採用し、偏りなく全方位に向けて育成し、いかなる外部環境の中でも適正な配置や抜擢が行えるように準備しておかなければならない。しかしこれを属人的に行うには無理がある。かといって科学は万能ではない。だから、有能な戦略人事が科学を用いるべきであり、人的経験値と科学を融合して活用すべきであるとこの本では説いている。

 例えば、今回のような経済停滞が急に起これば、失地回復を狙うべく新規事業やプロジェクトの立ち上げが、即刻必要となる企業も多いだろう。

 そうした際に、リーダーとなる人財やニーズを満たせるチームメンバー候補者がすぐに人選でき、組織化できれば、まさに戦略人事の面目躍如ということになる。

人財を科学的に分析する「HRプロファイリング」とは?

 では、こうした人財個々の「真のポテンシャル」はどうすれば精度高く判定できるのか。そのためには「戦略人事が科学的視点を持つ」ことが必要であり、それを実現させるのが、「HR(ヒューマンリソース)プロファイリング」という手法なのだそうだ。

「HRプロファイリング」とは、人財の性格特性と動機(ヒューマンコア)を測定し、「パーソナリティ」、「勝ちパターン」、「躓くポイント」などの強みや弱みを可視化するだけでなく、最も重要な、自社組織における「活躍可能性」を高精度に判定する手法とのことであり、人事担当者が定性・主観的な判断で人を見るのではなく、科学的(定量・客観的)に分析したデータ(HRプロファイル)を戦略人事が活用する手法のことで、本書は、その論理や事例を解説する1冊だ。

 HRプロファイリングは、例えば応募者に対して特性アセスメントを実施する前に、自社が求める人財要件モデル分析を行い、キッチリと社員データで検証することから始まるという。

 特性アセスメントとは、新卒採用の初期選考で主に用いられる適性検査と呼ばれるもので、多くの企業が「採ってはいけない人財をはじくための、いわばネガティブチェック目的で使っている」と、著者は指摘する。

 しかし、この発想はすでに間違った選考の第一歩であり、将来のリーダーや幹部候補を切り捨てている可能性が高いだけでなく、不適合人財を多く抱えて苦しむ第一歩となっているのだという。

「ストレス耐性が低い人財=不要な人財」は大きな間違い

 例えば、特性アセスメントによってある人財に「ストレス耐性が低い」という結果が出た場合、ネガティブチェックが目的なら、不採用にしてしまいがちになる。

 確かにストレス耐性が高い人は、打たれ強くタフさがある。しかし一方で、鈍感さが増して人への配慮が欠け、セクハラ・パワハラをする人の多くは「ストレス耐性が高い傾向がある」ことも、著者チームは確認しているという。

 逆に、ストレス耐性が低い人は落ち込みやすい一方で、人の心の痛みを肌感覚で察知でき、相手の意図をくんだ企画や提案が得意な人財が多く、チーム員個々の能力を最大化させているマネジャーにもストレス耐性の低い人が多いという分析結果もあるという。

 肝心なことは、単にストレス耐性は高い方が良いのだろうと、根拠なく決めつけてはいけないということ。自社にとっての優秀人財の要件とは何か。これを科学的に明らかにし、その要件にどれほど適合するのかという視点でなければならないと説く。

 こうした人財の性格特性や動機を本書は、「ヒューマンコア」と呼ぶ。そして「HRプロファイリング」においては、このヒューマンコアが自社の求める人財要件に適合しているかどうかを見極め、採用、配置、抜擢などのシーンで、いかに有効活用するかが重要なのだ。

 というのも「ヒューマンコア」は、若年期に形成された後、一生涯、容易には変容しない。しかも人の行動の根源的な土台がヒューマンコアであるという。見方を変えれば、未知数な新卒人財の採用合否を判断する上では唯一、将来における自社での活躍可能性を最も精度高く予測できるものとして位置付けられるからだ。

 これに対して、多くの企業が注目しがちな学力や、職務に必要なスキルや知識などは、いくらでも入社後の育成過程で上積みができるし、行動の意思決定をしている土台ではない。

 つまり、企業が費用と労力をかけて採用時に見極めるべきは、上物の知識やスキルではなく、行動の根源的な土台であるヒューマンコアであり、且つ、ネガティブチェックではなく「ポジティブチェック」として見極めることが、「HRプロファイリング」では重要なのである。

「HRプロファイリング」を可能にする未来型アセスメント

 こうした「HRプロファイリング」を可能にするためには、相応の目的で設計された特性アセスメントが不可欠になる。

 そこで登場するのが、「マルコポーロ」という未来型アセスメントツールだ。本書には、マルコポーロを活用した、人財の採用事例、育成、配置、抜擢事例などが数多く紹介されている。

 あるシステム構築会社などは、情報系学部出身の大学生に重点を置いた採用をしていたが、マルコポーロで既存社員を分析した結果、優秀なSEとして活躍している人財のほとんどが文系出身者だったことが判明したという。

 もちろんこれは、自社の求める人財要件とのマッチングからの分析なので、業界全般にいえる傾向ではない。

 重要なのは、自社の求める人財要件がセットアップされた自社基準のアセスメントを活用し、採用試験の第一歩から、しっかりと将来までを見据えた企業と人財の「適合性の確認」を、科学的に判断できる体制づくりが望まれるということなのだ。

 本書は、経営者や戦略人事を名乗る人事担当者をコアターゲットにした内容だ。しかし、部下を持つ役職者や、リーダーを目指す人にとっても、人財の活かし方を学ぶ上で多くの有益な情報が得られる1冊といえるだろう。

 著者たちの取り組みは、「人と職のマッチングはもっと素敵であるべきだ」という思いから始まったという。「HRプロファイリング」によって、企業と人財がお互いにハッピーになる、そんな社会が拡がることを期待したいものである。

文=町田光