父がYouTuberを目指した背景を知ってはじめて分かる家族愛と友情…。『AI崩壊』ノベライズの著者が描く、泣ける家族小説!

小説・エッセイ

更新日:2020/7/27

『お父さんはユーチューバー』(双葉社/浜口倫太郎)

「子供の将来なりたい職業」の上位に入ることが多い一方、「子どもになってほしくない職業」のアンケートでも1位になったことのあるYouTuber。圧倒的な成功者がいる一方で路頭に迷う人も多く、今もっとも毀誉褒貶が激しい職業といえるだろう。

 なお、「子供は自分の就きたい仕事に就けばいい」と思う人でも、「自分の親がYouTuberになると言ったらどうする?」と聞けば、まず「イヤ!絶対にイヤ!!」と言うだろう。『お父さんはユーチューバー』(双葉社/浜口倫太郎)は、そんな時代の空気を捉えた家族小説だ。

 舞台となるのは宮古島。主人公の海香は小学五年生の女の子で、将来は東京の美大に入りたいと思っている。しかし、ゲストハウス「ゆいまーる」を営む父親の勇吾にはカネがない。「内地ではフクロウカフェが流行っているから、うちはアリクイカフェをやろう」などと突飛な儲けのアイデアを出したりするが、基本的には失敗続きである。

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 そんな勇吾だからこそ、YouTuberが儲かる職業と知ったら、「俺はYouTuberになる!」と言い出しそうなのだが、この小説では実際に言い出す。そして、やる気満々で公開した動画の視聴数は……、これから読む人のために秘密にしたいが、大方お察しのとおりだ。

 だが、この小説『お父さんはユーチューバー』は、ここからが面白いのだ。

 まずこの小説では、実在の超有名YouTuberと1文字違いの「ヒカリン」というYouTuberが登場。そして、「成功するYouTuberは遊んで稼いでいるように見えて寝る間を惜しんで努力している」、「YouTuberとして失敗する人はYou Tubeを子供だましだと舐めてかかっている」といった実情が語られる。

 つまり、YouTuberをネタにしている小説ではなく、その影にある努力に光を当てる小説なのだ。「YouTuberの良い点は、失敗がたくさんできるということ。失敗を恐れて何もしないことのほうがダメなんだよ」といったセリフには、ドキッとさせられるだろう。

 そして物語では、娘の海香を父1人で育てる勇吾が、12年前に上京して夢を追っていた過去や、その夢を断念して宮古島に帰ってきた経緯も明かされる。そして、勇吾がYouTuberとして有名になることにこだわった背景に、家族への愛や、一緒に夢を追っていた仲間への思いがあることが分かり……。読んでいる内に胸が熱くなる話なのだ。

 なお著者の浜口 倫太郎は放送作家としても活動してきた小説家。第5回ポプラ社小説大賞の特別賞を受賞した『アゲイン』では芸人を作品の題材にしていたが、本作の文章にも「芸」や「笑い」への深い理解と洞察が感じられる。彼がYouTuberを真摯に描けるのは、自身が人を笑わせるコツやセオリーを知っている一方、それを実現する難しさも知っており、「安易な笑い」を目指すことへの葛藤も常に感じてきた人だからなのだろう。

 また物語では、点と点が先になり「そういうことだったのか!」と驚く場面もあれば、登場人物の行動に「何でそんなことするんだよ!」とイライラさせられる場面もある。もちろん、ホロッと感動させられる場面もある。このあたりはエンタメ業界の出身で、映画のノベライズも多く手掛けてきた作家らしく、今の時代らしいキャッチーな題材を小説の形できっちり楽しめる1冊になっている。

文=古澤誠一郎