1時間で何mmの雨が降ると危険? NHK気象キャスターが解説する命を守る気象知識

スポーツ・科学

2020/7/2

『一番わかりやすい天気と気象の新知識』(弓木春奈/河出書房新社)

 ここ数年で日本列島に大きな傷跡を残した異常気象が、今年も猛威を振るうかもしれない。その原因のひとつである地球温暖化は着実に進んでおり、100年に一度の記録的な災害は、今後定期的に起こる可能性がある。

 いま私たちに必要なのは、気象に対する知識だ。知ることなくして適切な対策は打てず、容赦ない災害に襲われて命さえ落としかねない。

 気象を知るうえで役立ちそうな本のひとつに『一番わかりやすい天気と気象の新知識』(弓木春奈/河出書房新社)がある。著者は気象予報士で、NHK気象キャスターの弓木春奈さん。本書の「はじめに」の部分で、弓木さんはこのようにつづる。

気象災害で命を落とす人がひとりでも少なくなるように思いを込めて書きました。あなたの命、あなたの大切な方の命を守りましょう。最後まで読んでいただけたらうれしいです。

 これからの時代、気象を知ることは、命を守ることに直結する。ここで本書の一部を紹介するので、ぜひ命を守る備えとして役立ててもらえれば幸いだ。

日本の新しい避暑地は沖縄県!?

 最近の日本の夏は40度近くまで気温が上昇する。特に埼玉県や岐阜県で異常な高温が定期的に発生しており、理由として海からの距離が挙げられる。

 読者は、埼玉県と沖縄県、どちらが35度以上の猛暑日が多いと考えるだろうか。驚くべきことに、答えは埼玉県だ。2019年の夏、埼玉県熊谷市では猛暑日を17日記録した。一方、沖縄県那覇市はなんとゼロ! 海上の比較的涼しい空気が沖縄本島を吹き抜けるので、30度超えの真夏日こそ多いが、35度を超えることはあまりないのだ。反対に埼玉県は海から距離があるので、ヒートアイランド現象も相まって熱い空気がたまりやすく、ときに40度超えの異常な高温を叩きだす。これは岐阜県でも同様のことが起きている。

 ちなみに沖縄県は、2020年6月25日現在で、観測史上一度も40度超えを記録していない。もはや夏の新しい避暑地は沖縄県になりそうである。

自力で飲み物を飲めなくなったら救急搬送を

 気温が高くなるほど警戒すべきは、熱中症だ。その死者は、2018年に1500人超えを記録。台風や大雨被害が多発した近年でも1000人規模の死者を出しておらず、日本最大の気象災害は熱中症と断言してもいい。

 梅雨が明ける7月中旬~下旬から、熱中症で病院に運ばれる人が本格的に増え始める。2019年は、7月29日~8月4日の週に最多を記録し、約1万9000人の人々が救急搬送された。熱中症のピークである8月が終わるまで、超厳戒態勢で対策を講じなければならない。

 最も手軽で効果的な対策は、30分おきなど、時間を決めてこまめに水分補給をすること。1Lの水に1~2g程度の塩を溶かして飲むとなおよい。そして体温上昇を防ぐため、日傘や帽子で強い日差しを避けよう。屋内にいる場合でも、エアコンなしで過ごすのは非常に危険だ。高齢者ほど命の危機に瀕する。すだれやカーテンで直射日光を遮り、室温が28度を超えないよう空調をしっかり効かせよう。

 もし熱中症になったら、すみやかに涼しい場所へ移動だ。重症の場合はどれだけ早く体を冷やせるかが、生死を分けるポイントになる。冷えたペットボトル、氷、保冷剤などで、首の付け根、わきの下、太ももの付け根の前面を冷やすと効果的だ。必要ならば119番して、落ち着いて救急車を呼ぼう。ちなみにおでこに貼る冷却シートは、体感的に冷たくても、体を冷やす効果はないので覚えておくべし。

 また周囲の人が熱中症にかかったときは、必ず本人に自力で飲み物を口にできるか確認しよう。自力で飲めないと意識がもうろうとしているサインなので、ただちに救急搬送して点滴をしてもらう必要があるからだ。

1時間あたり何mmの雨が降れば危険?

 ここ数年、全国各地で発生している豪雨被害。経験したことのない激しい雨が川の増水を引き起こし、ある程度の雨量に耐えうる大都市の下水道をあふれ返し、洪水が多くの命を飲み込んだ。

 ここで理解しておきたいのは、1時間あたりの雨量と危険度だ。ときどき気象予報士が「1時間あたり○mmの雨が~」と口にする場面を見かける。しかしそう言われてもピンとこない人が大半のはずだ。

 とにかく覚えてほしいのは、気象予報士が「1時間あたり30mm以上の激しい雨が~」と口にしたら警戒すべきということ。まさしくバケツをひっくり返したような雨で、夜中に降れば寝ている人の半数くらいが雨音で目覚めてしまう。道路が川のようになり、高速道路を走ればブレーキが利きにくくなって危険だ。

 そして「1時間あたり50mm以上の非常に激しい雨」になると、「ゴーゴー」という恐ろしげな雨音が鳴り始める。傘はまったく役に立たず、水しぶきで白っぽくなって視界が悪くなり、高速道路に限らず車の運転が本当に危険。

「1時間あたり80mm以上の猛烈な雨」になると、雨を浴びるだけで息苦しい圧迫感があり、恐怖を感じるという。このクラスになると災害がいつ起きてもおかしくないので、すみやかに命を守る行動をしよう。

 また1日の降水量が年間降水量の5~10%を超えると災害が発生するといわれている。ぜひ今のうちにネットで、自身が住む地域の年間降水量を検索してほしい。気象庁のサイトでは地域ごとに年間降水量を公表しており、大変参考になる。

 同サイトで東京都世田谷区の年間降水量を確認すると、約1600mmと表示された(1981年~2010年の平均値)。つまり世田谷区では1日80mm~160mm以上の雨量が、災害が起きる目安となる。たとえば1時間あたり30mm以上の激しい雨が、3時間にわたって降り続けた場合、命を守る行動を取らなくてはいけないわけだ。

支流から決壊するバックウォーター現象

 本書より最後にもうひとつ、「バックウォーター現象」を取り上げたい。これは全国の河川で起こりうる大変危険な決壊現象だ。

 川には本流と支流がある。通常ならば、支流の水が本流に合流する形で流れている。ところが豪雨により本流の水位が増すと、支流の水が本流との合流地点でせき止められてしまう。すると支流の水が行き場を失い、流れを逆行する形で決壊。広い範囲に洪水を巻き起こす。

 堤防が整備されている川でも想定以上の雨が降ると十分に起こりうるので、報道を見逃さず、各自治体から発令される警戒情報を逐一確認しよう。

 このように本書は、気象の知識を紹介しつつ、災害から命を守る備えを読者に指南する。繰り返すが、いまや気象を知ることは、命を守ることに直結する。あなたの命、あなたの大切な方の命を守るためにも、少しでも気象に関心を寄せてほしいと願う。

文=いのうえゆきひろ

この記事で紹介した書籍ほか

一番わかりやすい天気と気象の新知識: 異常な空模様の「どうして?」に答える本 (KAWADE夢文庫)

著:
出版社:
河出書房新社
発売日:
ISBN:
9784309485423