元メンヘラだから言える「脱メンヘラ法」「メンヘラ気質を資源に」…どうにもできない私を好きになる救済法

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更新日:2020/8/7

すべての女子はメンヘラである
『すべての女子はメンヘラである』(スイスイ/飛鳥新社)

「メンヘラ」という言葉を初めて知った時、これは自分のことだと思い、ギクっとした。誰かに依存し、底なしの愛情を求めても心は常に空っぽ。「消えたい」という感情にいつか殺されてしまいそうだった。

 その残骸は、今でも時々顔を出すことがある。だから、『すべての女子はメンヘラである』(スイスイ/飛鳥新社)に綴られていた言葉から目が離せなくなった。

“まるで、制御できない獰猛な野生動物が心に棲みついているようで、自分で自分が手に負えなかった。(中略)怒りや悲しみなど、感情の津波に飲み込まれそうになる夜も多く、何に悩んでいるかわからないほど常に何かに悩み、頭の中はいつも散らかり放題だった。”

 あ、私と同じだ。そう感じて、興味が湧いた。

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 著者のスイスイさんは「いますぐきて」が口癖で、彼氏から「毎日そばにいるから」と言われたいがためにリストカットをするようなメンヘラだったが、現在の夫と出会って変わろうと決意。今では自分を「ハッピーリア充」と形容できるまでになり、ウェブメディア「cakes」にて、読者の悩み相談に答え続けてきた。

 そんなスイスイさんは本書で、自身の経験をもとにしながら、メンヘラの特性をユーモラスに解説し、独自に導き出した“脱メンヘラ術”を紹介している。

経験者だからこそ語れる「脱メンヘラ法」

 メンヘラな自分を変えたいと思い立っても、どこをどう変えればいいのか分からずに悩んでしまう。よく耳にする「相手に依存しない」や「趣味を持つ」というアドバイスは漠然としすぎていて、イマイチ頭に入ってこない。それができるなら、そもそもメンヘラになっていないと昔、筆者は何度も思った。対して、スイスイさんの「脱メンヘラトレーニング」は、どこをどう変えればいいのか具体的で実践しやすい。

 本書では斬新な脱メンヘラ術が全5章に分けて記されているのだが、中でも引きこまれたのが「大失恋をボーナスに」や「行動ファスティング」などというユニークな呼称がつけられた7つの「脱メンヘラトレーニング【実践編】」。このトレーニングは最愛の元カレとの恋から生み出されたものだ。

 その中でも特に染みたのが「メンヘラ気質を資源にする」という考え方。メンヘラ特性は自己嫌悪のもとになりやすいが、スイスイさんはそれを「才能」として捉え、活かそうと提案する。例えば、ネガティブすぎる一面もひとつの才能だと考えると、似たような人の気持ちに寄り添える自分の優しさに気づけたり、仕事への活かし方が見えてきたりするもの。こんな風に、「嫌な一面」をプラスに捉え、自己肯定感をあげるトレーニングなんて初めて知ったから驚き、感動した。

 スイスイさんがこうしたアドバイスを思い立った背景には「元メンヘラ」という過去を「黒歴史」ではなく、「宝」として受け止めていることが大きく関係しているように思える。

“メンヘラやメンヘラホイホイだらけで肩を寄せ合い自己嫌悪を煮詰めあったあの狭い世界でしか、得られなかったものは大きい。自分で言うけど、負の感情を味わい抜いた人は優しさの幅が広い。つまり結局私はやっぱり、井戸で過ごした日々も愛しいのだ。”

 メンヘラと聞くと、大半の人はリストカットをしたり、過剰に恋人を束縛したりする人を思い浮かべるだろうが、本当にそうした人たちだけがメンヘラなのだろうか。スイスイさんは、メンヘラを「感情コントロールが苦手で、暴走してしまう人」と表現した上で、こんな言葉を寄せている。

“性別問わず現役メンヘラのみなさんはもちろん、メンヘラの扱いに悩むメンヘラ関係者のみなさん、そして、ストレスや不安や孤独を抱え込みがちな、感じやすい、悩みやすいすべての人にも、どうか私の集大成を捧げたい。”

 一般的にメンヘラ認定されていない人にも本書を読んでほしい。「どうにもできない私」を好きになるための救済法が、ここにはあるから――。

 他にも、本書にはスイスイさんが辿りついた「悩まないセブンルール」や最愛の元カレからのあとがきなどが収録されており、最後までとことん楽しめるつくりになっている。

 メンヘラ要素を持つ不器用で不格好な自分でも、明日を見て生きていこう。そう思わせてくれる温かさが、本書にはある。

文=古川諭香