処刑場跡地に構えるホテル。成仏できなかった霊たちが事故物件芸人ら一行に襲い掛かる!?

マンガ

公開日:2020/8/12

『事故物件芸人のお部屋以外もいって視るんです!』(おがたちえ:著、育代:監修、松原タニシ:取材協力/ぶんか社)

 ある部屋の中を撮影すると、誰もいないはずなのに、カメラの顔認証がいくつも反応する。またある時は、何も触っていないのに突然、照明が消えてしまう――。
 
 そんな訳アリの「事故物件」に、わざわざ住んで事故物件芸人として名を馳せる松原タニシさん。『事故物件芸人のお部屋以外もいって視るんです!』(おがたちえ:著、育代:監修、松原タニシ:取材協力/ぶんか社)は、タニシさんのナビゲートのもと、漫画家のおがたちえさんが、霊能者の育代さんとともに事故物件を訪ね歩くシリーズの第2弾だ。
 
 自称とても怖がりなのに、事故物件の取材を引き受けてしまったおがたさんと、人にも霊にも分け隔てなく接する、この道40年というベテラン霊能者の育代さん、そして次々と起きる怪奇現象に飄々と接する(ように見える)タニシさん。事故物件でさまよう霊たちの、背筋がゾワっとくる怖さだけでなく、3人の「ボケとツッコミ」的な掛け合いも好評を博した前作から、今回はさらにパワーアップ。タニシさんのホームグラウンドである大阪で、事故物件や心霊スポットをめぐる「大阪編」などが描かれる。

江戸時代の死刑囚たちが「視える」ホテル

 江戸時代の処刑場跡地だといわれる、大阪市内の某商店街。そこからほど近い雑居ビル「M」は当時遺灰の捨て場だったとされており、今も何かと「出る」のだそうだ。

 そのビルの一部フロアは、ホテルになっている。そこでは過去に撲殺事件があったばかりか、ある一角は不気味に閉鎖されているというのだ。

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 早速そのホテルフロアに向かうタニシさん一行。到着するや、育代さんが叫んだ。

「ここ、牢獄よ! 罪人たちの遺灰捨て場になる前は、死刑囚の牢獄だったのよ」

 無実の罪で処刑された者や、死刑を待つ間に精神に支障をきたした者たちの、あらゆる怨念を持った霊が「視える」という育代さん。一行は立ち去ろうとしたが、どうにも背中が重くて動けない。「何か」が追いかけてきて、一行の背中に乗っていたという。

 やっとのことで外に出た一行は後日、ホテルが営業を終了することになったことを知る。閉鎖されていた一角は、どうなったのだろうか。そこにいた「何か」は今どこに…。

コワイ霊たちも「元・人間」

 本書では、大阪編の他にも、出版元であるぶんか社で多発する怪奇現象とそれを鎮めるための除霊の様子や、タニシさんのもとになぜか集まる訳アリの「人形」に込められたエピソードなどの「怖い話」がたっぷりと盛り込まれている。夜、ひとりで読むのはあまりおすすめできないが、どうしてもという人は、時々、背後や目の前を確認してほしい。

 その一方で、読後にふと感じたことがある。育代さんを通じて現れる霊たちも、元はといえば人間なのだ。昔も今も、生きていくのは生易しいことではない。なかにはいわれなき罪で命を奪われたり、心配事や不安を抱えたまま命を落としたという人もいたかもしれない。そんな人たちの心が、住んでいた場所や、大切にしていたものに宿り、さまよい続けることもあるだろう。「成仏しづらさ」を抱えたままだった霊たちは、本書で描かれることでいくらか楽になっただろうか? 育代さんを通じて、聞いてみたいような、聞いてみたくないような…。

文=水野さちえ

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