自殺の多い踏切、何かが追いかけてくる廃火葬場、殺人事件の現場…「事故物件住みます芸人」が全国の異界を訪ね歩いてみた

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2019/8/20

『異界探訪記 恐い旅』(松原タニシ/二見書房)

 私事で恐縮だが、怪談やホラー関連の仕事はどうしてだか時期が集中する。夏場になるとそういった仕事が増えるという傾向はあるにしても、偏り方はちょっと異常だ。今回も「そういう時期なのかな」と思いはじめたところで、『異界探訪記 恐い旅』(松原タニシ/二見書房)の紹介依頼が舞い込んだ。案件と案件が呼び合っているようで、けっこう怖い。本書を読み進めているうちにも、なんとなく感じることがあった。もしかすると、著者の松原タニシさんも、「呼んでしまう」体質の人なのではないか?

 本書は、「事故物件住みます芸人」として知られる松原タニシさんが、約2年間という時間をかけて、北は北海道から南は沖縄県、果ては国境を越えて台湾まで、206箇所の“異界”を巡った旅の記録だ。タニシさんは、テレビ番組の企画で事故物件に住むようになってからというもの、「明らかに恐怖に強くなった」という。「もっと不思議なものに出会いたい、幽霊がいるならこの目で見たいと、さらに渇望するようになりました」。

 そんな彼だから、ただの心霊スポット巡りでは満足せず、自身で決めたルール──なるべく怪異現象の起きやすい真夜中に行く、長居できる場所へ行く、怪異現象が起きたときの証拠を残すため動画の生配信を行い記録するなど──にしたがって「異界巡り」へと繰り出していく。

 タニシさんが訪れたのは、事故物件はもちろん、やたらと飛び込み自殺の多い踏切、住人が集団失踪したといわれる廃墟群、殺人事件の現場、“丑の刻参り”発祥の地、鈴の音が追いかけてくる廃火葬場、女の怨霊が出る絶壁、行きにはなかった髪の毛の束が帰りには落ちているトンネルなどなど、ありとあらゆるバリエーションの心霊スポット。

 しかも彼が行く先々で、不可解な出来事が起こるのだ。やはり噂になるような心霊スポットは、高確率でなにかが“出る”ということだろうか。それにしても、遭遇率が高すぎないだろうか…?

 本書によると、タニシさんは、とある神社の巫女さんに「もともと“憑いて”いる」判定を下されているらしい。そうであれば、この高確率な“異界”との遭遇も納得できる。だがタニシさんは、そんな自分の“体質”(?)に負けてはいない。数多の心霊スポットに実際に足を運び、背筋が寒くなる体験を何度もする。さらには、伝説がデタラメであることを突き止めてしまったり、樹海で野宿をしながら後輩芸人の人生相談に乗ったりと、ついほっこりしてしまうような旅情も各地で味わうことになる。

 本書中で、タニシさんは語る。

“亡くなったはずの人間が現れた場所に自分が行くことで、僕は不思議な現象を現実の延長線上につなげたいと思っている。あの世とこの世がつながれば、過剰な不安や恐れで閉塞したこの世界が、もっと広がるのではないか。そんな希望を持っている。”

 人は異界に触れようとするとき、あらためてこの世界の“輪郭”に気づく。死の恐怖におびえることで、はじめてみずからの生を実感し、能動的に生きることができるのだ。

 ベストセラー『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房)の著者が体当たりで収集した不思議な話の数々は、現代の怪談事典である。そして、おびただしい数のWebページの中からこの記事にたどり着いてしまったあなたにも、タニシさんの“体質”に呼ばれてしまった“なにか”がある──のかもしれない。

文=三田ゆき