27連勤中の女性が疲れ果てて立ち寄ったコンビニの秘密とは…? 明かりに引き寄せられる人々のオムニバスドラマ

マンガ

公開日:2020/8/30

光の箱
『光の箱』(衿沢世衣子/小学館)

 コンビニには、どこか停滞した雰囲気が漂っている、と私は思う。そんなことを言ったら怒られるだろうか。でも、毎日目新しいものが並ぶわけでもないし(最近は野菜や肉まで買えるようになったが)、魚屋や八百屋のように積極的に声をかけてくる店員もいない。そこにあるのは、常に「日常で必要なもの」であり、それを欲する人たちをただ受け入れるだけの存在だ。

 そういう、コンビニの静かで時間が止まったような空間が、衿沢世衣子氏の『光の箱』(小学館)によって摩訶不思議な世界へと軽やかに変貌する。

 まずこの作品に登場するコンビニエンスストアは、普通のコンビニエンスストアではない。生と死の狭間にあるコンビニで、外は常に真っ暗。訪れる客は、人ではない常連と、生と死の狭間をさまよっている人々だ。店で働く店員も、店長とタヒニという男の2人は人ではなく(そこの説明は詳しくはされない)、コクラという青年は自転車のハンドルミスで死にかけたあと、生と死の狭間の世界で働き続ける半分人間という存在だ。

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 物語は、各話で登場するそれぞれの客が来店した背景から紡がれる。作中では「闇」と呼ばれるモンスターのようなものが暴れたり、それをタヒニが成敗したり、不思議なことが多々起こるが、一方で客自身はとてもリアルな暮らしの延長線上におり、そのギャップがまたおもしろい。

 ブラック企業で27連勤目を迎え、明らかに働きすぎのミサキから始まり、優柔不断でいつも選択を迫られるとパニックになるユウト、少年院出で工場で働く小桜、そしてコクラが所属する研究所のちょっと距離感の近い教授など、読めばきっと、心のどこかで共感してしまうような人々が登場する。

 そして、彼らは誰しもが、何かしらの理由で生と死の狭間に落ち、このコンビニへと来店してしまう。生き返る人もいれば、そのままその店で働くことを決める人もいる。コンビニはタイトル通り「箱」でしかなく、常に誰かを受け入れるだけの場所である。

 不思議な世界観の中で繰り広げられるストーリーなのに、どこかリアルで実在しそうだと感じてしまう。それはきっとコンビニの空気感をうまく再現していること、そしてそこで描かれる人間模様がどこまでも日常的であること、その2つが不思議な世界とうまく噛み合っているからだろう。

 笑ったり泣いたりと感情を大きく揺るがすような作品ではない。でも、読んでいるとホッとする。暗い夜道にコンビニを見つけて、どこか安堵するようなあの感覚。静かで、どこか停滞しているが、そこには私たちが日常生活でふと欲しくなる穏やかな気分が漂っている。

文=園田もなか