認知症ともの忘れは別物! 「もしや…?」家族の認知症に気づくための身近なサイン

健康・美容

公開日:2020/9/5

『60分でわかる! 認知症対策』(ファンメディケーション株式会社/技術評論社)

 もしも、自分の親が認知症になったら…。働きざかりの世代にとってみれば、気が重い心配だがけっして他人事とはいえない問題だろう。総務省が発表した2017年の「就業構造基本調査」によれば、家族の介護のためにやむなく仕事を辞めた「介護離職」は年間で9万9000人という統計もあり、その1人に、自分がなるかどうかは誰にも分からないはずだ。
 
 一方で、当事者ではない状況で、認知症について知識を得る機会はあまり多くないように思える。そんな私たちにとって書籍『60分でわかる! 認知症対策』(ファンメディケーション株式会社/技術評論社)は、認知症の実態や現在の医療制度、周囲の対処法などを網羅的かつ図解をふまえてわかりやすく学ぶことができる1冊。

認知症は、単純なもの忘れではない。その違いは?

 そもそも認知症とは何か? 実は、これ自体は病気の名前ではなく、頭痛や腰痛のような「症状を表す言葉」であると本書は解説する。さらに、その定義は「後天的な脳の障害により一度獲得した知的機能が自立した日常生活が困難になるほど持続的に衰退した状態」だという。

 原因となる病気に応じて「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」など、細かく区別されて呼ばれることもあるが、一般的に起きる「もの忘れ」とは異なるものだと覚えておかなければならない。

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 認知症を患っていなくても、もの忘れや判断力の低下に悩まされる場面は誰にでもあるだろう。しかし、健康な場合には、それでも日常の買い物や家事などを多かれ少なかれこなせるはずだ。一方で、認知症の場合は、「忘れてしまった」こと自体を本人が自覚できず、生活に支障をきたしてしまうという違いがある。

ふだんの生活であらわれる認知症の兆候とは?

 家族や身近な誰かが認知症にかかっている場合、もの忘れや判断力の低下以外にも、周りの家族や知人が小さな異変に最初におかしいと気づくことが多いという。サインはさまざまだが、家の中での生活の様子や、ふるまい、受け答えの仕方にも兆候があらわれる。

 さらに、認知症の疾患別によって症状も異なる。例えば、「レビー小体型認知症」の場合には、「小刻みにゆっくり歩くようになる」という兆候があるという。また、「前頭側頭型認知症」の場合は「能面のような表情になる」といった特徴もあり、比較的名前をよく聞く「アルツハイマー型認知症」では「つねにニコニコしている」という傾向もみられる。知識があれば、周囲の人たちが初期症状に気づいてあげられる可能性は十分にある。


 本書では、認知症を早期発見するための目安となる行動が図でわかりやすく示されているので、専門機関や行政に相談する場合にも、チェックしておけば役立つはずだ。

認知症の人と向き合うためのコミュニケーション

 認知症によって生活に支障をきたしていても、その本人の感情や自尊心は以前と変わらない場合も多い。周囲はどうしても「認知症患者だから」と考えてしまうかもしれないが、そう呼ばれることに傷付いてしまったり、嫌悪感を示す人たちもいるのだ。

 では、私たちはどのようなコミュニケーションを図るべきだろう? 本書は、声かけをする場合に大切な3つのポイントを紹介している。

 1つ目のポイントは「相手の目の前で話しかける」こと。後ろから声をかけても認知症の人は自分の世界に浸っていることもある。視界に入り、相手が気づいたら「◯◯さん」と一言呼ぶことが必要になる。

 続いて、2つ目に心がけておくべきなのは「2つ以上の話題を同時に話さない」ということだ。これは混乱をなくすためで、例えば、「着替え終わったら食堂へ行ってください」ではなく、「食堂へ行ってください」と、1つに絞ってお願いするのが大切だ。

 そして、最後に必要なのは「目線を合わせて低い声で話しかける」ことだ。相手の視界に入ってから、ときにはしゃがむなどして目線を合わせながら、低い声でゆっくりと話しかけるようにするのも肝心だ。


 さて、本書ではこのほかにも認知症についてのさまざまな知識を得ることができる。いま自分は若いから心配ないという方でも、「自分の親がもしかしたら…」と思い浮かべながら読んでみてほしい。

文=カネコシュウヘイ