不正受給を促す悪徳セミナーやマスクの高額転売…新型コロナで笑う“詐欺師たち”の正体

社会

公開日:2020/9/14

『ルポ 新型コロナ詐欺 経済対策200兆円に巣食う正体』(奥窪優木/扶桑社)

 世界中が例外なく混乱し続けている様を、目の当たりにした年――激動の今年を振り返ると、そんな思いが胸にこみあげてくる。いまだ収束の気配が見えないコロナ禍に、私たちはこの先どれくらい翻弄させられるのだろうか。
 
 未曾有のウイルスによる影響は、経済面でも大きな打撃を与えた。総務省統計局の「労働力調査(基本集計)」によると、今年6月の完全失業者数は約195万人。特に、非正規労働者の失業が増えている。
 
 だが、困窮者が増加している一方で、混乱に乗じ、巨額の富を手にしている詐欺師や転売屋も多く存在しているという。『ルポ 新型コロナ詐欺 経済対策200兆円に巣食う正体』(奥窪優木/扶桑社)は彼らに接触し、その手口を明らかにするルポルタージュだ。

補助金や助成金の「不正受給セミナー」が各地で開催

 感染症拡大により大きな影響を受けている中小・零細企業や個人事業者(フリーランスを含む)を支援すべく設けられた「持続化給付金」は、政府肝いりの政策。だが、この経済支援は抜け穴を狙われたり、詐欺集団の食い物にもされていたりするという。

 例えば、「新型コロナ関連補助金・助成金勉強会」とうたわれた“不正受給セミナー”が、東京や大阪、名古屋などで同時多発的に開催されていた。これはFacebookに広告を載せて人を集め、不正受給の誘惑を仕掛けるセミナー商法。

advertisement

 実際に潜入した著者によれば、会場では講師の男とサクラの受講生たちが場を盛り上げ、ビデオ上映がなされていた。ビデオでは行政書士や税理士などの専門家が「自分たちにすべて任せれば何もしなくていい」などと主張。同セミナーを受講して高額な補助金を獲得したという人々が成功体験を語り始める。そして、動画の最後には専門家の手を借りずに補助金申請を試み、詐欺罪で逮捕された人物のエピソードが紹介されていたそうだ。

 上映後は別室で個人面談。「本来なら100万円のところ、今日この場での契約のみ、特別に50万円で1年間専門家に相談し放題」と契約を持ちかけられ、脈ありだと判断されると講師をしていた男が直接やってきて畳みかけられるのだ。

 なお、この悪徳商法の被害者によれば、実際は電話や面会での相談、申請書の作成には別料金が必要だと言われたそう。そこで、主催会社に問いただすと「追加料金なしとは言っていない」と言われてしまい、困惑。消費者センターに相談するも、匙を投げられてしまった…。

 コロナの影響により、悪徳商法のような古典的な詐欺が形を変え、復活しているのが日本の現状。そんな異常事態を、ある詐欺師は「完全なボーナスステージ」と語っていたという。

 本書にはこの他にも、さまざまな不正受給の手口やマスク転売の真実が記されている。特に、日本のドラッグストアからマスクが消え、あれほどまでに価格が高騰した理由に迫る項は、非常に興味深かった。

 政府や自治体による多くの支援制度を利用するか否かは個人の判断にゆだねられている。政策の抜け穴を食い物にしようと企む人間がいる一方で、本当に困窮している人には支援の手が届いていないことも多い。

 例えば、正直に届出をしている風俗店は持続化給付金がもらえないのに、そうではない闇風俗店が受け取っているという現実もあるという。コロナ禍により、「正直者が馬鹿を見る社会」になってしまっているのだ。

 だからこそ、現実を知り、しっかり考えたい。いまだに終わりの見えないこのコロナ禍の中で、自分はどう生き抜いていくかを。心まで未曾有のウイルスに蝕まれないように――。

文=古川諭香