【ネタバレあり】『ONE PIECE 97』「また時代が動くかもな」――ビッグ・マムとの同盟で世界最強の戦力を手にした百獣海賊団に見え隠れする内紛

マンガ

公開日:2020/9/18

ONE PIECE
『ONE PIECE 97』(尾田栄一郎/集英社)

 とうとう始まった。主君の無念を晴らすべく、ワノ国を開国すべく、ルフィ一行とワノ国の侍たちによる鬼ヶ島上陸が。目指すは、憎き将軍オロチと四皇カイドウへの討ち入り。

 しかしそれは並大抵のことではない。四皇一団を相手にするだけでも世界が震えるのに、カイドウは同じく四皇ビッグ・マムと海賊同盟を組んだ。世界最強クラスの2人が手を組むことは、部下として従える猛者共も含めて、世界最強の戦力を有することに他ならない。化け物と表現しても言い足りないこいつらを相手に、勝ち目はあるのだろうか?

 最新刊『ONE PIECE 97』(尾田栄一郎/集英社)は、そんな絶望に少しだけ可能性を見出すことができる。

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ついにあの男が麦わらの一味に加入!

 本作は始まりから騒がしい。まず将軍オロチの犬だった狂死郎は、将軍オロチとカイドウへの恨みで姿が変わり果てた、最後の“赤鞘九人男”傳ジローだと判明する。そのおかげで、カン十郎の裏切りで頓挫したかに思われた討ち入り計画は、少々の幸運もあって支障なく進んでいく。

 そしてルフィ・キッド・ローの3船長が、いがみ合いながら敵の船団に突っ込むシーンがある。ワンピースファンならば懐かしい光景だ。そうだ、450話以上さかのぼった52巻で同じ姿を見た。シャボンディ諸島のオークション会場でルフィが天竜人を殴り、海軍に囲まれたとき。ルフィ・キッド・ローが(罵り合いながら)共闘したシーンがデジャヴする。あのときは人間兵器パシフィスタを前に、ルフィは海賊としての実力不足を突きつけられたが、今回はどのような結末が待つのか…。

 さらに麦わらの一味に10人目の仲間が、待ち焦がれたあの男が加入する。サンジ奪還を遂げた最後、ビッグ・マム海賊団の猛追の盾となり、その安否が心配された。まさかこの地獄での参戦に、心強さも相まって胸が高鳴る。

百獣海賊団の6人の精鋭幹部「飛び六胞」

 しかし絶望が消えたわけではない。本作で百獣海賊団の隠されていた戦力が明らかになる。「飛び六胞」だ。百獣海賊団には、人造悪魔の実「スマイル」によって力を得た「ギフターズ」の中でも、飛び抜けた実力を持つ「真打ち」がいる。その一人が、ルフィと同じ“最悪の世代”バジル・ホーキンスだ。さらにその中から選ばれた6人の精鋭幹部がいる。それが「飛び六胞」だ。

 こいつらは強敵だ。飛び六胞メンバーの、うるティとページワンが、ルフィと交戦するシーンがある。古代種の能力者のうるティは、爆発を起こすほど強烈な頭突きをルフィに浴びせた。同じく能力者のページワンは、ルフィの「象銃(エレファント・ガン)」を食らっておきながら、「アゴが外れそう」程度の傷しか負わなかった。

 こんな猛者が6人いて、キングをはじめとする大看板が3人いて、四皇が2人もいて…。いやいや、無敵すぎる…。本当に勝てるのだろうか? 侍たちの討ち入りも夢のごとく潰えるのか?

百獣海賊団に見え隠れする内紛

 ところが百獣海賊団も一枚岩ではないらしい。まずX・ドレークの存在だ。すでに明かされたように、彼は飛び六胞の称号を得ていながら、海軍将校コビーと通じ合う「特殊機密部隊sword」の隊長でもある。この討ち入りで正体を表して、手を貸す展開があるだろうか? もしくは海賊同士の潰し合いを望んで何もしないのだろうか?

 続いて注目したいのが、大看板クイーンの発言だ。

おれが「飛び六胞」を一人消し!!
そのイスを一つ空けてやる!!

 これは、ルフィとゾロが敵に見つかったとき、2人を討ち取った者に飛び六胞の称号を与えると、クイーンが約束した発言だ。問題は、クイーンが殺したいと嫌う飛び六胞がいること。作中を注意深く読むと、どうやら当該の飛び六胞もクイーンを殺したいと怒っているように見える。たぶん。ふーむ…内紛か?

 さらに驚くべきことに、カイドウにはヤマトという息子がいる。しかしなぜか失踪中らしい。カイドウは飛び六胞に息子を探すよう命じる。そのときカイドウは「大看板への挑戦権」を約束するのだが、それは本作に譲ろう。

 とにかくこのヤマトの存在が、討ち入りのカギになりそうだ。先述の通り、ルフィとうるティが激突したとき、その勝負を終わらせたのがヤマトだった。なんと父親の必殺技「雷鳴八卦」でうるティを撃沈させたのだ。そしてルフィを連れ出し、「君をずっと待っていた」と気になる発言をする。むむぅ…反抗期か? いや、さすがに違うな…。

 血縁で築いたビッグ・マム海賊団と正反対なのか、ギスギスしていて付け入るスキが見える百獣海賊団。絶望的な強さを誇るようだが、事の運び次第では希望もありそうだ。

 なによりそれを確信させる、彼らの参戦が胸をアツくする。ヒントはワノ国編ですでに出ていた。時代を築いたあの海賊団の、あいつと、あいつだ。

 この討ち入りは、いくつもの海賊団が入り混じっている時点で、海賊同士の戦争の側面もある。とうぜん結末次第で世界がひっくり返るはずだ。最後に、ある人物の、あるシーンの発言を引用しよう。

また来る頃には
時代が少し動いてるかもな

文=いのうえゆきひろ