「言い返したい! でも、言い返せない…」を形勢逆転するための“絶妙な切り返し”術を教えます!!

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公開日:2020/9/20

マンガ版 ちょっとだけ・こっそり・素早く「言い返す」技術
『マンガ版 ちょっとだけ・こっそり・素早く「言い返す」技術』(ゆうきゆう:著、Jam:イラスト/三笠書房)

 7年も前のテレビドラマの続編が、果たして令和の時代にも通用するのかと心配された『半沢直樹』が絶好調だそうである。ドラマを観たことの無い人でも、「やられたらやり返す、倍返しだ!」という、胸のすくような名ゼリフはご存じだろう。一方、現実的にはあんな啖呵を切ることは難しい。だからこそ人気があるとはいえ、誰かに何かを云われても云い返せずに悶々とした気持ちを抱えたまま、あるいは寡黙なほうが賢明だと自らを慰めているような人には、この『マンガ版 ちょっとだけ・こっそり・素早く「言い返す」技術』(ゆうきゆう:著、Jam:イラスト/三笠書房)が役に立つかもしれない。

 本書は、精神科医の著者が以前に刊行した文庫本の内容に4コマ漫画を加え、より置かれた状況や反撃の仕方などをイメージしやすくなっている。そしてプロローグでは、他人から叱責を受けたり悪口などを云われたりした際に、黙っていることのデメリットが挙げられている。

何を云われても反撃しないデメリットとは?

 マンガでは主人公のチョコスくんが、他人からの言動に耐えている自分を「我慢強くて優しい人」と周囲から思われる姿を妄想しているけれど、著者の分身キャラは「悪口を言われても当然」という見方が正当化されてしまうとバッサリ。また例えば、議論において5人いると意見も5通りあるからと他人を尊重してばかりいるのも、自分を不利な状況に追い込んでしまいかねない。何故なら、最終的にどんな人の意見が通りやすいかというと、極めてシンプルに「もっとも多く話していた人の意見」だからである。必ずしも「多く話す人=知識のある人」とは限らないのに、「たくさんのことを話す」=「豊富な知識がある」と周囲の人が思って、その意見に引きずられてしまうそうだ。

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何か云われたらまず自分を守り、口撃をかわす

 自分に非がある場合には、なおさら口応えをしないほうが良いと思うかもしれないが、本書では単なる悪口も、敵意むき出しの罵詈雑言もひっくるめて、まずは自分の「心を守る」ことを勧めている。非があれば謝るのは当然としても、その非を超えてまで受け身でいる必要は無い。それこそ相手が怒って興奮しているようなときには、とにかく落ち着いた対応を心がけよう。先に口数が多い人のほうが優位になるとあったが、人間は無意識に相手の話のペースに合わせがちだから、同じ調子で応じてしまうと、ますますヒートアップしかねない。

 強い相手にはまず「ゆっくり話すこと」により、相手のペースに巻き込まれないよう主導権を自分のほうへと引き寄せるのだ。また、相手が自分に敵意を向けているのが明確ならば、動揺を悟らせないことも大事。相手は反応を見て愉しんでいると考えられ、落ち着いた態度を見せることで「相手はがっかりします」という寸法だ。

反撃する時は正面切って戦わないこと

 さあ、いよいよ反転攻勢である。本書では、代表的な5つの戦術を挙げているのだが、気をつけたいのは正面切って戦わないことだという。いささか卑怯に思えるかもしれないが、自身はドラマの主人公ではないし、強い言葉を投げかけてくる相手は「人間関係の破壊を恐れなくていい」と思っているか、実際に強い立場にあるだろうからだ。そもそも戦い慣れないのに、いきなり対決するなどというのは「ボロ負け」確定である。しかし、戦う前から戦意喪失しても仕方ないので、あえて著者が使用を控えるよう警告している禁断の5番目、「フィードバックの戦術」を紹介しておこう。

 その戦術は「相手の状態について口に出す」というもので、具体的には「今のあなたは、怒っている」とか、「声が高い」「キミの話し方は……」というように、云っている内容ではなく相手の状態や話し方を指摘するのだ。マンガで著者の化身が、「大抵の人はハッとして動作が止まり気恥ずかしさに何も言えなくなるでしょう」と述べているとおり、この方法は論理上は負けているときにも起死回生できる正に「ジョーカー」。場合によっては自分の評判を落とし、周囲を含めた人間関係までも破壊しかねない危険な攻撃と肝に銘じておくべきだろう。

「深追いは禁物」の掟

 もし本書を読んで戦い方に自信が持てても、絶対に深追いしてはいけない。あまりに手厳しく反撃してしまうと、倍返しどころか猛攻撃を仕掛けてくる可能性があるし、なにより本書の目的はマイナスの状況をゼロに戻して、「これをさらにプラスに持っていく」ことにあるからだ。そしてゲリラ戦法で使う戦術は、相手の怒りを鎮めたり意地悪な気持ちを霧散させたりするテクニックとして応用できる。著者が「周囲と少しぐらいケンカをしながらも仲良く暮らせる」のが人生を豊かで楽しくすると語っているように、私たちはドラマの登場人物ではなく現実に生きる人間なんである。

文=清水銀嶺