「自宅介護」がいちばん劣悪な介護環境であるワケ。親を安心して預けられる施設とは?

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公開日:2020/10/16

介護施設は「人」で選べ 親を安心して預けられる施設とは?
『介護施設は「人」で選べ 親を安心して預けられる施設とは?』(たくきよしみつ/講談社)

 50代にもなると、リアルに気になってくる親の介護の問題。今は元気でもこの先はどうなるのだろう…いざというときに困らないために、できれば「介護の基礎」を押さえるなど事前準備はやっておきたい。まずは本で情報収集と思いきや、ここ数年で介護業界は激変し、いままでの通説や一般論が通じにくくなっているのだという。

『介護施設は「人」で選べ 親を安心して預けられる施設とは?』(講談社)の著者・たくきよしみつさんによれば、たとえば施設探しにしても「マニュアル通りにやっていてはよい施設にたどり着くことはまず難しい」とのこと。たくきさんは、今年の4月に特別養護老人ホーム(特養)にいた義母を、昨年の3月に小さな施設にいた父を看取ったばかりだが、2人の終の棲家となる施設にめぐりあうまでに紆余曲折し、入居したあとにもさまざまな困難や試練に直面してきたという。そんな経験で得た最新の介護事情(中にはなかなか表に出てこないストレートな裏事情もある)をリアルな本音で語ってくれたのが本書。以下、いくつか介護初心者に向けた心構えを紹介しよう。

「家で家族が面倒をみる」は環境的にはいちばん劣悪!?

 介護初心者にとって、最初の悩みは「要介護になったとはいえ、そもそも親を介護施設に入れていいものか」かもしれない。だが介護の負担を家族が背負いこみ「介護離職」してしまってはダメージが大きすぎる。追い込まれる前に「要介護度が進んだ人を介護できるのはプロしかいない」ことをまず自覚して、早い段階から施設探しの情報を集めたほうがいいだろう。介護士は「プロ」であり、いくら家族でも「プロ」のようには世話ができないのは当たり前だ。現場の介護士たちも異口同音に「家族が介護する環境がいちばん劣悪な環境だ」と言っているという。

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家族の中に最終決定権を持つ人を決めておく

 認知症が進み、すでに理性的な判断ができなくなっている親を施設に入れる場合、決断は家族に委ねられることになる。だが得てして家族の間で意見がわかれ、喧嘩になったり不仲が深まったりするだけで、なかなか結論が出ないことがある。そうならないためにも事前に「最終決定者」を決めておき、家族で話し合うようにしよう。ちなみに最終決定者は「人間観察能力にすぐれ、合理性を重んじる性格の人。候補となる介護施設に直接出向き、施設の担当者と面談ができる人」が適任。ちなみに施設に入った後にもやることはたくさんある(親の携帯を解約するのだって結構な作業ボリュームだ)。あらかじめ家族間で役割分担を決めておこう。

パンフレットやネットの情報は役に立たない

 施設探しの第一歩にパンフレットを取り寄せたりネットで空き情報を検索したりするのが一般的だが、実際にはあまりこうした情報は役に立たない。施設側が発する情報には当然「いいこと」しか書いておらず、「こういう方は向いていない」「こういう介護は対応できない」など利用者が本当に知りたい情報はデメリットになるので書かれていないからだ。それを知るためにはやはり直接施設に出向き、施設長や相談員、ケアマネジャーなど現場を動かす人たちと十分に話し合い、納得がいくまで自分で確認するほかない。「介護の質は設備や認可の分類ではなく、あくまでもスタッフの質、つまり『人』で決まる」(たくきさん)だけに、やはり直接確かめるのが一番の方法なのだ。

「親を施設に預けると決めた時点で、ある意味合理的な割り切りをしたわけですから、その割り切りを負い目に感じないために、また、自分自身の残りの人生に余計な悔いを残さないためにも、覚悟を決めて、徹底的に悩み、よりよい解決を目指しましょう」と、たくきさん。本書には各介護施設の特色や選び方のポイント、施設との面談のときに確認すべきことから看取りに際しての心構えまで、いざ介護する「当事者」になったときに動じないための本音情報が盛りだくさんであり、1冊読むだけでも相当心強いはず。「100点満点の解決はないでしょう。でも、少しでもよい結果が得られるよう、本書の情報がお役に立てば」という著者の言葉、ありがたく受け止めたい。

文=荒井理恵