「WEBマンガ総選挙」2020で1位を獲得! 今だからこそ『フェス』に夢中になれるマンガがここにある!

マンガ

公開日:2020/11/15

デイズ・オン・フェス
『デイズ・オン・フェス』(岡叶/KADOKAWA)

 生まれてこの方、一度も「フェス」というものに参加したことがない。何度か誘われたことはあったものの、フェスは耳の肥えた人たちが楽しむものというイメージが強かったため、あまり音楽を聴かない自分が行っても浮いてしまうのではないか……と遠慮していた。けれどいま、無性に「フェスに行きたい欲」が湧いている。それはなぜか。『デイズ・オン・フェス』(岡叶/KADOKAWA)を読んだからだ。

 本作は「フェス」をテーマにした、青春群像劇だ。先日開催された「WEBマンガ総選挙」2020では堂々の1位に輝くほど支持されており、その面白さはお墨付き。けれど、手に取るまでは疑ってかかる自分もいた。フェスに行ったことがないぼくでも楽しめるのだろうか、と。結果、それは杞憂だったのだが。

 物語は、女子高生・空良奏(そら・かなで)が仲良しのクラスメイトである山奈音葉(やまな・おとは)から、フェスに誘われるシーンで幕を上げる。どうやら音葉は生粋のフェス好きのよう。けれど、奏は即答で断る。音葉が聴くロックを知らないし、もみくちゃにもされたくない。奏の心配もごもっとも。初心者からすると、どうしてもフェスにはそんなイメージがつきまとう。

デイズ・オン・フェス

 けれど、奏の好きなバンド「デイズオンユース」も参加することを知り、彼女はなんとなく会場に足を運ぶことにする。そして、ここから奏はフェスの魅力に取りつかれていくことになる。

デイズ・オン・フェス

 

 奏が会場で初めて生演奏を聴くシーンがある。繊細ながらも力強いタッチでそれが描かれていて、彼女が肌で感じた興奮、熱狂、迫力――いわゆる「感動」と称されるものがその1シーンに詰め込まれていて、思わず見入ってしまった。マンガは絵なので、そこから音楽が聴こえてくることはない。それはわかっているのに、バンドがかき鳴らすギターの音や観客の声援、奏の心臓が高鳴る音までも耳に届くような気がした。きっと同じことを感じる読者は少なくないだろう。そしてそれを感じたら最後、一気に本作の面白さに心を鷲掴みにされるはずだ。

 群像劇と書いたように、物語は奏と音葉だけではなく、音葉の兄・楽(がく)や大学生の海野律瑠(うみの・りつる)、奏に想いを寄せるクラスメイトのバンドマン・深川メロ、そしてデイズオンユースの面々など、さまざまな視点から展開されていく。その一人ひとりが音楽に、フェスに想いを寄せている。

 フェス初心者の奏に共感する人もいれば、行き慣れている人であればフェス玄人の楽や律瑠たちの行動に「あるある」と頷きたくなるかもしれない。また、観る側ではなく出演する側として、メロやデイズオンユースのメンバーたちの気持ちがよくわかる、という人もいるだろう。このように、本作は多種多様なキャラクターの目線でフェスの魅力に迫っているため、フェスを知らない人もどっぷりハマっている人も、誰一人として取りこぼさない。もちろん、ぼくは完全に奏に感情移入しながら読んだ。

 フェスグルメの美味しさや、泊りがけでフェスを楽しむ方法、複数のクラブをめぐる都市型音楽フェスの存在。フェス初心者からすれば「へぇ~!」と唸るような豆知識も自然と鏤められているのも特徴だ。おかげで、一度もフェスに参加したことがないのに、とても詳しくなってしまった。

 そして、本作の根底にある裏テーマが「夢」である。「バンドで活躍したい」というメロに対し、奏はまだ不確かな夢しか描けていない。大学生の律瑠はもっと顕著で、そもそも生きる希望すら抱いていない。登場するキャラクターたちは、みな多かれ少なかれ夢で悩んだ過去を持っていたり、あるいはまさにその渦中にいたりする。けれど、本作を最後まで読み進めていくと、それぞれが希望に満ちた答えを出す。その姿はとても爽やかで、感動的だ。

デイズ・オン・フェス

 特に、このメロの何気ないセリフはグッとくる。夢に大小なんてない。誰かと比べる必要もないし、たとえそれが「平凡」とされるものだったとしても、夢は夢なのだ。ただフェスを楽しむマンガとして読み進めていたため、不意打ちを食らい、心が温かくなるような感動を覚えた。

 奏たちのように「好きなもの」を見つけ、それを仲間と共有し、夢中になれる時間はとても尊いものだ。それがフェスである必要はないし、きっと各々にとって大切ななにか、が存在するのだと思う。それは当たり前のようだけれど、忙しい日々に追い立てられていると忘れてしまいがちだ。本作はそんなことを教えてくれる、素晴らしいマンガだった。

 そしてもう一度。いま、無性にフェスに行ってみたい!

文=五十嵐 大

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