「有効なワクチンを短期間に開発できる?」得体の知れないウイルスの正体に迫る『新型コロナ 7つの謎』

健康・美容

更新日:2020/12/24

新型コロナ 7つの謎
『新型コロナ 7つの謎』(宮坂昌之/講談社)

 人は得体の知れない未知のものに恐怖を感じるという。現在、そういう意味で全世界の人々に恐怖を広げているものは、もちろん新型コロナウイルスだ。日本でも感染が急速に拡大し、医療提供体制を逼迫。医療崩壊の危機が叫ばれる深刻な状況に陥っている。

 2019年末に中国湖北省武漢市で最初に報告された、この未知のウイルスによる感染症は、あっという間にパンデミックを引き起こし、感染者と死者を激増させた。現在にいたるまで終息の気配は見えておらず、あらゆるメディアに真偽不明のさまざまな情報があふれている。

 こうした状況で、いつ自分や大切な人が感染するかもわからないウイルスの蔓延に恐怖を感じるのは当然かもしれない。しかし、この感染拡大第3波の最中に講談社ブルーバックスから刊行された『新型コロナ 7つの謎』(講談社)の著者、宮坂昌之氏は本書の「まえがき」で次のようにいう。

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「ウイルスや病気に対しては『正しく理解する』ことが必要で、そうすればむやみにこわがることはないはず、と考えています」

 これはその“新型コロナウイルスを正しく理解する”ための本だ。免疫学の第一人者である著者は、信頼できる文献をリサーチして科学・医学情報を分析。最新の免疫学と感染症学の知見、エビデンスに基づいて、このウイルスと感染症について多くの人が持っているであろう疑問や不安などにこたえていく。考察されるのは次の7つの謎だ。

①風邪ウイルスがなぜパンデミックを引き起こしたのか
②ウイルスはどのようにして感染・増殖していくのか
③免疫 vs. ウイルス なぜかくも症状に個人差があるのか
④なぜ獲得免疫のない日本人が感染を免れたのか
⑤集団免疫でパンデミックを収束させることはできるのか
⑥免疫の暴走はなぜ起きるのか
⑦有効なワクチンを短期間に開発できるのか

 本書では、まず人体とウイルスのメカニズムについて基礎的な解説がされていくのだが、この序盤からしてめっぽうおもしろい。そもそもウイルスとはどのような存在なのか、人間の細胞に感染・増殖していくウイルスに対して免疫はどのように働くのか、イラストや図表を使った丁寧な解説を読んでいくうちに「人間の体って、なんて複雑な仕組みになっているんだ」といまさらながら“人体の神秘”に驚かされてしまう。

 もちろん、本題である新型コロナウイルスについても、多面的な観点からわかりやすい解説がしっかりされている。「ただの風邪と変わらないって本当?」「海外に比べて感染者が少ない日本人には集団免疫ができている?」「PCR検査はどんどんやるべき?」「BCG接種が感染防止になる?」「ウイルスは弱毒化した?」「重症化はどのようにして起こる?」「ワクチンの有効性と危険性は?」など、さまざまなトピックスを取り上げつつ、その都度、世間に流布する風説や話題になった専門家の仮説が検証されていて、間違っているものは間違っているとはっきり書かれているところも心強い。

 新型コロナウイルスについては未知の部分が多く、本書でも現時点で答えが出ていない疑問もいくつかある。しかし、本書を読むことで、このウイルスと感染症について、いま正しく知っておくべきことはわかるだろうし、その理解も深まるはずだ。たとえば、世界中が注目、期待しているワクチンについて、自分自身がどのような判断をするのか、本書に書かれていることがきっと考える参考になる。こうした知識を得ることが、あふれる情報に踊らされることなく、過剰な恐怖をなくし、蔓延するウイルスに対抗する力にもなるだろう。

 なにより、よく知らなかったウイルス・感染症のメカニズムが明かされていく過程が、読んでいて実に興味深く、おもしろい。まさにいまこそ読むべき1冊といえるだろう。

文=橋富政彦