漫画やアニメだけじゃない! 昔話や神社、お祭り…私たちはこんなに多くの”異界”に囲まれていた

文芸・カルチャー

公開日:2021/3/3

日本異界図典
『日本異界図典』(朝里樹:監修/GB)

 鬼や呪霊といった、この世ならざる“異界”の存在が登場する漫画やアニメの人気が止まらない。内容が面白いのはもちろん、人と異なる未知の存在が、畏れやスリルを倍増させているとも言えよう。

 異界にまつわる信仰や伝承は、どのようにして生まれ、語り継がれてきたのか。こうした異界の成り立ちに興味があるアナタにおすすめしたいのが『日本異界図典』(朝里樹:監修/GB)。日本の空間やモノ、暮らし、行事などさまざまな視点から、異界ついて解説してくれる一冊だ。

 異界を知れば、漫画やアニメはもちろん、日本の伝統や行事に隠された意味を知ることができる。ここでは本書の中から、身近にある異界について取り上げていこう。

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不吉な方角を示す“鬼門”。実は桃太郎と深い関係が!?

 占いや風水で“鬼門”という言葉を聞いたことはないだろうか。これは平安時代に広がった、北東(丑寅)の方角を不吉とする思想のこと。古来、鬼が出入りする方角であるとされ、災いを呼ぶ、縁起の悪い方角として忌み嫌われていた。

 日常生活ではあまり鬼門という言葉を聞かないだろう。だが、あの国民的昔話「桃太郎」と鬼門には深い関係があるのだ。ここで、絵本に描かれていた恐ろしい鬼たちを思い出してほしい。牛のような角を生やし、トラ柄のパンツを穿いていなかっただろうか。まさに今も引き継がれる鬼のテンプレートだ。実はコレ、北東(丑寅)の鬼門を象徴しているという。

 一方、桃太郎が連れていた「サル・キジ・イヌ」は、干支に直すと「申・酉・戌」。方角でみると南西から北西を示しており、鬼門のほぼ反対側だ。つまり、この3匹が選ばれたのはただの偶然でなく、鬼を抑える使命を持って登場しているということだ。

鳥居の朱色は魔除けのため! 神社を守る結界の数々

 日本の伝統建築である神社。その数は約10万社。ちなみにコンビニの店舗数が全国で約5万店と約2倍だ。そんな神社に祀られているのはもちろん“神様”。神聖な存在を迎えるため、境内には魔や穢れを防ぐさまざまな“結界”が張り巡らされている。

 鳥居をくぐった瞬間、空気が変わった感覚を味わったことはないだろうか。これは鳥居が俗世と神域を隔てる、神域の入り口としての機能を持っているから。また、鳥居の美しい朱色は、防腐剤として使われる水銀の色で、魔除けの効果もあるという。

 ほかにも、注連縄(しめなわ)や玉垣にも結界の機能があったり、手水舎が穢れを払うための場所であったりと、神社には神域を守るためのさまざまな仕掛けがある。こういった神社の魔を払う結界について知れば、いつものお参りで新たな発見がありそうだ。

なぜ、お盆シーズンに祭りや花火大会が行われる? そこにはある“想い”が込められていた!?

 ご先祖様の霊がこの世に帰ってくるとされるお盆。日本では8月中旬、実家へ帰省し、お墓参りをするのが恒例となっている。

 このお盆シーズンには、お祭りや花火大会が多く開催されるが、その理由を知っているだろうか。お祭りといえば盆踊り。今でこそ、老若男女を問わずに楽しめる盆踊りだが、もともと、先祖の霊をもてなし、あの世へ送り出す神聖な行事だったとか。

 また花火大会も、その起源は娯楽ではなく、慰霊や疫病退散の願いを込めた行事だったそう。昨年行われた医療従事者への感謝を込めたゲリラ花火。感謝の気持ちだけでなく、コロナという疫病の退散の願いも込められていたのだろう。

 本書にはこのほか、“鬼ごっこ”や“かごめかごめ”などの遊びに込められた意味や、茶道や相撲など伝統芸能と異界の関係など、異界にまつわる話が豊富なイラストとともに紹介されている。2時間あればサクッと読み終えることができるので、興味がある人はぜひ手に取ってみてほしい。

文=冴島友貴