女性差別が「作られた」歴史を「家父長制」からたどる1冊『女性差別はどう作られてきたか』

社会

公開日:2021/3/19

女性差別はどう作られてきたか
『女性差別はどう作られてきたか(集英社新書)』(中村敏子/集英社)

 3月8日は「国際女性デー」。今年も渋谷の街角ではジェンダーによる差別をなくそうとデモをする女性たちの姿が見られた。大きな嵐となった#MeToo運動や要人の女性蔑視発言など、残念なことに日頃から「女性差別」を意識させられる機会も多いが、そもそもどうして女性は差別されなければいけないのだろう。「男女に身体的な差があるから」と漠然と捉えがちだが、実は女性差別には「作られた」側面があるという。

『女性差別はどう作られてきたか(集英社新書)』(中村敏子/集英社)は、いかに人類が女性差別を「制度化」して強化してきたかを知ることができる興味深い1冊だ。中でも著者が注目したのは「家父長制」。家父長制とは「男性が権力をもって物事を決定し、それに女性を従わせようとする支配の構造」のことで、本書ではヨーロッパ(特にイギリス)と日本でどう家父長制が制度化され、今日までその影響が続いているのかを明らかにしていくのだ。

 まず冒頭から驚かされるのが、ヨーロッパ社会では「女性差別を正当化する」根拠が古代から明文化されていることだ。人類ではじめて公式に「女性差別言説」を残したのはアリストテレスとされ、「男性こそ本質であり、よりよい存在。原理を体現し、何かをできる能力を持つが、女性は単なる材料。いわば発育不全の男性」と、かなり唖然とする内容。つまり古代の社会からすでに女性差別の意識は明らかにあったということであり、その意識は「キリスト教」の誕生でさらに「根拠のあるもの」とされていく。

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 聖書にある「アダムとイブが楽園を追放される『原罪』を作り出したのは誘惑に弱いイブのせいであり、そもそもイブはアダムを助けるためにアダムの肋骨から生まれた存在」という内容が「女性は男性に劣る存在である」とみなす根拠となって女性差別が正当化されるのだ。しかも時代を経て「宗教改革」や「政治改革」で社会が近代化しても、女性への意識は基本的に変わらない。女性は男性に劣った存在として家に押し込まれ、「夫」である男性に支配される構造が強化されていくのだ。

 本書ではこうしたヨーロッパでの女性差別の成り立ちを紹介した上で、それでは日本はどうだったのかと江戸時代から振り返る。実は江戸時代の社会では「家」の継続が第一であり、夫婦もそれぞれが職分を担って「家」を守ることに注力する存在であり、「夫が妻を支配する」といった家父長制ではなかったという(ちなみに妻は結婚後も自分の姓を変えない「夫婦別姓」。離婚する権利があるなど同時代のイギリス人女性よりよほど解放されていた)。それが明治以降にヨーロッパにならって法律が整備される中、家父長制の構造が生まれ、あわせて女性差別も強化されていったのだ。そしていまや2020年のジェンダーギャップ指数が153カ国中121位という結果…なんとも複雑な気持ちになる。

「日本は、政治や経済の重要事項を男性が決定し、女性がそれに従って生活する『家父長制』が成立している」と著者。女性の社会進出が進んで少しでも状況が変わっていくことを願うばかりだが、とりあえず日本の女性差別はヨーロッパのように宗教に根ざした内面化された意識ではないということは救いかもしれない。しかも急激に変わったということは、これからよい方向に大きく変わる可能性もあるということ。本書で差別が「作られたもの」という歴史を知ることで、そんな逆説的な希望を持てるのもうれしいことだ。

文=荒井理恵

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