日常に息苦しさを感じる子どもたちの、うまく言葉にできない思いに寄り添う児童小説《2021年坪田譲治賞受賞作!》

小説・エッセイ

公開日:2021/4/18

もうひとつの曲がり角
『もうひとつの曲がり角』(岩瀬成子/講談社)

 思い出してみれば、子どもの頃は、大人が振りかざす「正しさ」を、とにかく窮屈に感じた。「これをしなきゃダメ」「あれをすべき」などと注意されるたびに「本当にそうなのかな」と疑問に思いながらも、何も言い返せず、ウジウジしていた。子どもにだって、うまく口にできないだけでちゃんと考えていることがあるのだ。大人になると、つい子ども時代の大切な思いを忘れてしまう。

 岩瀬成子氏の『もうひとつの曲がり角』(講談社)は、子どものうまく言葉にできない思いにそっと寄り添うような作品だ。大人も子どもも共有できる世界を描いたすぐれた作品を対象とする児童文学賞・坪田譲治賞の第36回(2021年)受賞作。子どもはもちろんのこと、大人にもオススメの作品だ。

 主人公は小学5年生の朋。中学1年生の兄と両親とともに、2カ月前に市の西側から東側に引っ越してきた。母の理想が詰まった新しい家での生活。今まで以上にアクティブになった母に勧められるがまま、朋は英会話スクールに通い始めることになってしまう。ある日、英会話スクールが休講だということを知った朋は、普段通ったことのない道へ行ってみることに。T字の曲がり角を曲がると、その先から聞こえてきたのはおばあさんの声。その声の持ち主・オワリさんは木に囲まれた小さな庭でひとり朗読をしていた。英会話スクールをさぼっては、たびたびT字路の曲がり角を曲がるようになる朋。けれども、朋はなぜか別の道に迷い込んでしまい、踊ることが好きな女の子・みっちゃんに出会う。オワリさんと、みっちゃん。2つの不思議な出会いによって、朋の日常は静かに変化していく。


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「なんでも挑戦って、子どもはいわれてばっかりだけどね、いやだなって思う気もちだって大切だと思うけど」

 朋は新しい生活にまだなじめずにいる。新しい家での暮らしにいきいきしている母とは違って、引っ越してきてからの生活に疑問を感じてばかりいるのだ。特に英会話スクールに通うことには強い違和感を覚え、それをうまく言葉にすることができないでいる。母親の「たぶん正しい」言い分に窮屈さを覚え、ちょっぴり悩んでいる朋。そんな姿をこの本では優しく描き出していく。

 もし、日常に息苦しさを感じている子どもたちがこの本を読めば、「朋と同じようなことを感じたことがあるなぁ」と共感させられることだろう。それに、T字の曲がり角を曲がれば、別の世界が広がっていることを思えば、きっと気持ちが軽くなるに違いない。道は一本だけではない。私たちにはいろんな道がつながっているはずだ。

 また、大人たちは、悩む朋の姿に、少し反省させられるかもしれない。「将来のため」と思ってしてあげたことで、子どもたちを苦しめてはいないか。「子どもたちの感情にもっと寄り添ってあげたいな」と自然と思わされる。そして、朋と出会って子ども時代を思い出したというオワリさんのように、自分の幼少期のことを懐かしく思い出すだろう。

 いくつになっても、私たちの中には子どもの頃の時間が流れているのかもしれない。朋の不思議な冒険にドキドキさせられること間違いなし。冒険によって成長していく朋の姿、影響されていく周りの大人たちに温かな感動が胸に広がる。日常に窮屈さを感じている子どもたちにこそ、届いてほしい。

文=アサトーミナミ