福山雅治さんも推薦! 自然TV番組ディレクターが伝える“生きものと自然”の神秘

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更新日:2021/4/21

誰かに話したくなる摩訶不思議な生きものたち
『誰かに話したくなる摩訶不思議な生きものたち』(岡部聡/文藝春秋)

 やっぱり生き物って本当に不思議で面白いな……。そんな素朴な感想をつぶやいてしまうのは『誰かに話したくなる摩訶不思議な生きものたち』(岡部聡/文藝春秋)を読んで、生物と自然の関係の奥深さを改めて思い知らされたからだ。本書はテレビ番組ディレクターとして30年以上にわたって自然番組を手掛けてきた著者が、さまざまな野生動物の知られざる生態を紹介する一冊。「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」「NHKスペシャル」など数多くの人気番組を制作してきた著者は執筆のきっかけを次のように言う。

“自然番組を作れば作るほど、自分の目で見て、現場で感じたことの10分の1も視聴者に伝えられていないのではないか、という思いが募ってきたのだ。”

 その言葉の通り、本書には現場で動物を見てきた人にしか書けない臨場感や迫力、神秘を感じさせてくれるエピソードがたっぷり詰まった計14編を収録している。

 例えば、アマゾンに棲む熱帯魚コペラ・アーノルディのとても変わった産卵方法をどれぐらいの人が知っているだろう。この魚は水からオス・メスが同時に飛び出し、空中で葉っぱの上に卵を産みつけるのである。外敵から卵を守るためと推測されているが、こんな産卵をするのは地球上にこの魚しかいないそうだ。さらに不思議なのは、メスがどこかに行ってしまった後もオスはその場にとどまり、卵が孵化するまで水中から卵に水しぶきをかけ続けること。葉っぱの上の卵を乾燥させないためには、水中から水をかける必要がある――という論理的な思考は人間だからできることで、魚の脳はそこまで発達していない。それなのに、なぜこんな特殊な習性を持つに至ったのか? まさに自然のミステリーだ。

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 ブラジルの不毛な草原地帯“セラード”に生息するタテガミオオカミとハキリアリ、ロベイラという植物の非常に複雑でありながら、理にかなった“つながり”にも思わず感心してしまう。とても苦みが強いロベイラの実を食べられるように進化したタテガミオオカミ、巣の中でキノコを育てるハキリアリ、ハキリアリの巣の上にしか生えないロベイラの木。過酷な環境を生き抜くため、それぞれの生態と習性が長い年月をかけて作り上げた巧妙なエコシステムは、生命の連鎖の物語のようだ。

 そのほか、何世代にもわたって人間のボラ漁を手伝う野生のイルカや毎年夏に世界中からユカタン半島に集まるジンベイザメの秘密、直立二足歩行の進化を再現するフサオマキザルの石を使ったヤシの実割り、他の哺乳類とはまったく違う進化を遂げたオオアリクイの特殊な生態など、どのエピソードにも「へえ、そんなことになってるなんて全然知らなかった」という新鮮な驚きがあって、人間の想像を超える生物の“面白さ”が堪能できるはず。そして、文章の端々から著者の生物と自然に対する畏敬の念が伝わってくる。

“今、地球上で生きているものたちは、それぞれの環境の中で、途方もない時間を勝ち残ってきた、進化の勝利者であることに疑う余地はない。”

 それは同じ地球で数多の生物と共に暮らしている人間の生き方についても問いを投げかける。福山雅治さんが帯に寄せた「地球にとって、生きものにとって、人間とは何なのか? 本書は、そんな人間のための本。ひいては、地球のための本」という推薦コメントは、そうした著者の姿勢に共感を示したものだろう。

 実際に世界中を駆けめぐり、生物と自然を取材し続けて、決定的な瞬間に立ち会ってきた著者ならではのこうした視点もまた、本書の大きな魅力なのだ。

文=橋富政彦