コンビニなどで薬を買うことが増えるかも? 「登録販売者の教科書」を読んで、セルフメディケーションを考えてみる

健康

公開日:2021/5/16

やさしくわかる! 登録販売者1年目の教科書
『やさしくわかる! 登録販売者1年目の教科書』(村松早織/ナツメ社)

 一般用医薬品(以下OTC)の「2分の1」ルールが、今年度中に撤廃される見通しという報道があった。この規制は、“薬を販売するお店は一週間分の営業時間のうち半分に相当する時間、国に認められた公的資格を有する「登録販売者」または薬剤師を常駐させなければならない”というもの。仮に24時間営業のコンビニエンスストアで薬を販売するとなると、その1/2の時間に資格者を常駐させる手当で人件費がかさむため、よほど販売需要が見込めなければ経営的に厳しかった。

 規制が撤廃されても、資格者のいない時間帯に薬の販売が出来ない点は変わらないものの、自由度が上がるため深夜帯だけや反対に客の多い時間帯などに限定して資格者を配置する形での販売が可能になるとみられている。日本医薬品登録販売者協会は「登録販売者不要論」につながるとして反対する一方、短時間労働を望んでいたり個人での開業を目指したりしている人たちからは、「働き方の幅が広がるのでは」と期待する声もある。

 しかし、世間で大きく報じられず巷の噂にもならないというのは、そもそも登録販売者のことが知られていないからではないかとも思う。それでいて、資格の人気ランキングでは上位に入っているそうで、より身近になり会う機会が増えそうな登録販売者の仕事は知っておいたほうが良いだろうと思い、『やさしくわかる! 登録販売者1年目の教科書』(村松早織/ナツメ社)に手を伸ばした。この本自体は新人の登録販売者向けの教本ではあるが、それだけに薬の解説などが丁寧で分かりやすく、漫画で描かれた接客事例を含め、大人の学習本としても遜色ない内容となっている。

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登録販売者の役割は、商売人にして番人

 大学で6年間学び、すべてのOTCを販売できる薬剤師と較べると、誰でも受験できる試験に一回合格して資格を取得し、扱えるOTCの種類にも制限がある登録販売者とでは、薬の専門性において劣るように思われる人もいるかもしれない。しかし、本書では登録販売者について、「医薬品を販売する“商売人”としての一面と、状況に応じて医薬品を販売しない“番人”としての一面を持ち合わせている」と解説している。

 店舗における仕事は多岐にわたり、商品の発注や品出しなどの、小売業として当たり前のような業務も、実は大きく異なる。それは取り扱う商品、すなわちOTCについての知識を身につけることが基本中の基本という点だ。当たり前のように聞こえるかもしれないが、扱う商品の種類や特性について、覚えることは少なくない。本書でも新人へは、「この症状にはこの商品をおすすめしよう」というように、あらかじめ知識を蓄え候補を決めておくことをアドバイスしている。それは患者の視点から見れば、自身で選ぶのに迷ったら、いつでも相談できる存在ということでもある。

 先ほど「番人」と書いたように、求められるまま薬を販売しない、という場合もあるそうだ。

 自分で薬を選ぶ場合、パッケージに書いてある効能などを参考にする人が多いだろうが、応対する登録販売者のほうは常に症状の裏に隠れている「考えられる病気を推測」してOTCでの対応が可能か判断し、ときには病院への受診を勧め、あるいは薬を使わない方法を提案することまで考えなければならないとしている。

新人登録販売者の悩みは、新人患者の悩みと同じ

 登録販売者は、「過去5年間のうち通算して2年(1920時間)以上の実務・業務経験」という条件をクリアしないと1人で売り場に立つことが出来ない。試験に合格する前の品出しなどの業務を実務としてカウントするかどうかは店舗や会社によって違うが、いずれにせよこの条件は資格を取得したあとも継続が必要。裏を返せば登録販売者という資格は制度上、店頭に立つことが求められているのだ。

 それはいわば、医療の最前線ということでもある。そのためか本書は、かなり接客に重点を置いており、薬の解説においても患者の事情に合わせた選び方を挙げているのが特徴的。雑誌やネットの記事にありがちな、一人ひとりの事情を無視した薬のランキングよりも、よほど実用的に思える。

 新型コロナウイルス禍にあって、少しの体調不良なら、病院に行かずに市販薬で済ませたいと考える人も多いのではないだろうか。だが、“新人の患者”としてデビューした途端に自分の判断だけで解決しようとするのは無謀というもの。漫画で紹介されている接客事例では、新人登録販売者が来店した患者にどうアプローチしようか迷い、患者もまた薬を前にして悩んでいる様子が描かれていた。

 そして、自分のことでも上手く伝えられない患者と、ヒアリングに四苦八苦する登録販売者というのはありがちな光景で、登録販売者が質問するべきポイントは、そのまま患者にとっても同じことのよう。まずは声をかけてみるのが、双方ともにプロを目指す近道となるだろう。

文=清水銀嶺