ゲイとして生まれ孤独を覚悟した著者によるエッセイ『僕が夫に出会うまで』がコミカライズ! 重版も決定!

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公開日:2021/6/8

僕が夫に出会うまで
『僕が夫に出会うまで』(原著:七崎良輔 著:つきづきよし/文藝春秋)

「自分をゲイだと認めたとき、孤独死すると思ったんです」

『僕が夫に出会うまで』(文藝春秋)の著者である七崎良輔さんにインタビューしたとき、彼がこぼした一言だ。いつか結婚して、温かい家庭を持つと信じていた七崎さんは、自らの性的指向を認めたときに「たったひとりきりで生きていく不安」に襲われたそうだ。それはなぜか。日本では同性愛者への世間の風当たりがいまだ強く、さらに同性婚が認められていないからである。

 だからこそ七崎さんは筆を執り、自身の生い立ちや最愛のパートナーと出会うまでの半生を綴った。それは文春オンライン上で人気の連載となり、やがて一冊の本になった。それが 『僕が夫に出会うまで』だ。

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 その出版からおよそ2年。このたび、 『僕が夫に出会うまで』がBL漫画家・つきづきよしさんにより コミカライズされた。同名タイトルでの連載もまたもや人気となり、累計4,300万PV(※)を突破したという。(※2021年2月時点)

 本作は原作を忠実にコミカライズした作品である。しかしながら、絵が加わることで一人ひとりのキャラクターが立体的に浮き上がり、表情が非常に鮮明になる。それはつまり、七崎さんの苦しみや哀しみもよりダイレクトに伝わってくるということでもある。

 たとえば冒頭で描かれるワンシーン。まだ小学生の七崎さんがクラスメイトの前に立たされ、教師によって「七崎くんはオカマなのかな?」と議論の的にされてしまうシーンだが、このときの七崎さんの怯えている表情を読むだけで彼の苦しみが痛いほど伝わってくる。自分はふつうじゃないのかもしれない、と自問自答し、それでも「ふつうでありたい」と願う。

 仮に仕草が女の子のそれに近かったからといって、どうして「オカマ」と揶揄されなければいけないのか。いや、そもそも女の子らしい・男の子らしいと振り分けることが間違っている。“その人らしくあること”が最大限尊重されるべきだろう。

 けれど、七崎さんが子どもだった頃は、いまよりもまだ性や多様性への理解が進んでいなかった。七崎さんはその被害を真正面から受けてしまったのだ。

 以降も切ない描写が続いていく。なかでも胸を打つのは、同級生に“叶わぬ恋”をしてしまうエピソードだ。しかし、彼は異性愛者。七崎さんが恋愛対象になることはない。しかも、ついには彼女まで作ってしまう。

 もしも女性に生まれ変わることができたのなら、彼女として隣で笑っていたのは自分なのではないか。七崎さんは決して叶うことのない願いを胸に、張り裂けそうな痛みに襲われてしまう。この他のエピソードにも言えることだが、こうやってつらい目に遭ったときの七崎さんの表情がとても悲痛で、こちらにもその痛みが伝わってくるのだ。

 ただし、そればかりではない。ラストで七崎さんが最愛のパートナーである亮介さんと出会ったとき、そして彼からプロポーズされた瞬間、七崎さんがどれほど幸福に包まれたのかも伝わってくる。同時に、そこに至るまでのつらい経験とのギャップに、思わず涙が零れそうになる。

 日本では自治体レベルでパートナーシップ条例が取り入れられるようになってきた。しかし、同性婚の成立はまだ。七崎さんはきっといまも、それに向けて戦っているのだろう。

 家族を持ちたい――。七崎さんのそんなシンプルな願いが、近い将来叶うといいな、と思う。

文=五十嵐 大

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