六代目・神田伯山が監修! 『ひらばのひと』を読めば寄席で講談が聞きたくなる!?

マンガ

公開日:2021/7/18

ひらばのひと
『ひらばのひと』(久世番子/講談社)

 全国に点在する演芸場、通称「寄席」は、さまざまな“芸”が楽しめる場所です。寄席の番組(プログラム)には、漫才や手品などのほかに、落語や講談、浪曲など日本の伝統的な話芸も名を連ねています。伝統話芸のなかでも「落語」はドラマや映画、マンガなど創作物の題材になったり、落語を話す噺家さんがテレビに出演したりと目にする機会が多く、幅広い層に支持されている話芸です。

 落語と同じく伝統ある芸にもかかわらず、あまり目立っていないのが「講談」。講談とは、史実を元にした物語を講談師(講釈師)が脚色して読み上げる話芸です。ただ、最近は100年にひとりの講談師と名高い六代目・神田伯山氏がテレビやラジオで活躍しているので、講談に興味を抱いている若い人も増えているかもしれません。

 そんな講談ビギナーにおすすめの1冊が『ひらばのひと』(久世番子/講談社)です。

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 同作は、主人公の女流講談師・龍田泉花の日々を中心に、現代の講談師が置かれている状況や彼女の弟弟子の泉太郎の成長を描く群像劇。

 件の神田伯山氏も講談監修として“助太刀”している本格派の作品ですが、筆者のような講談を知らない人でも楽しめる内容になっています。とくに印象的なのが、作中に登場する講談シーン。物語冒頭では高座に上がった泉花が“落語と講談の違い”についてこう説明します。

「落語と講談 似ているようで 異なります。見た目の違いは この釈台と張扇(はりおうぎ)。手前ども講釈師は 右手に張扇 左手に扇子 釈台を叩きながら 読む話芸。
 落語は「噺(はなし)」ですが 講談は「読み物」。落語は フィクション。講談は 歴史を脚色した物語。落語家は男が多いが 講釈師は女が多い!」

ひらばのひと

ひらばのひと

 上記は、あえて吹き出しのスペースや改行を残して引用しました。筆者の予想で恐縮ですが、息継ぎのタイミングなど言葉のリズムを意識して改行やスペースが入っているような印象を受けました。コマの流れも躍動感があって読みやすい! 生の講談を見たことはありませんが、寄席の雰囲気が伝わってくるようでした。

 作中には『怪談乳房榎』や『出世の春駒』など、実在する講談の演目も多数登場します。泉花や泉太郎が読む演目に声が乗ると、いったいどんな講談になるのか、想像しながら読むと楽しさが倍増するはず。

 そのほか講談師が歩んでいる険しい芸の道のリアルも、本作の見どころです。泉花は前座時代から「女の声はキンキンして聞き辛えや」「芸が白粉(おしろい)くさい」など、客からの野次にも負けずに講談を続けてきました。しかし、弟弟子の泉太郎は講談界にとって“貴重な若い男”という理由で、師匠や客にもてはやされている……その現実にモヤモヤしながら、修行の日々を過ごしています。

ひらばのひと

 一方の泉太郎も、講談が人気を博していた時代を知らないことに劣等感を抱き、講談師を諦めそうになる一幕も。講談界を軸に、さまざまな人間模様が描かれています。

ひらばのひと

ひらばのひと

 ちなみにタイトルの「ひらば」は漢字で「修羅場」と書きます。講談師が張扇を「ぱん!」と鳴らしながら、尻上がりに読んでいく軍記物の勇壮な場面をひらばと呼ぶとか。彼らが講談を通して成長していく姿は、まさに“ひらば”そのもの。テンポよく進んでいくストーリーにも注目です。

 休日には『ひらばのひと』を片手に寄席で講談を聞くのも、1日のオツな過ごし方かもしれません。

文=とみたまゆり

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