「今月のプラチナ本」は、松岡健太『左手のための二重奏』

今月のプラチナ本

公開日:2021/8/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『左手のための二重奏』(1〜4巻)

●あらすじ●

複雑な家庭環境から暗い日々を送る不良中学生のシュウは、同じ学校に通う天才ピアニスト、弓月灯と出会う。しかし直後に二人は交通事故に遭い、灯だけが亡くなってしまう。失意のどん底に落ちて灯の後を追おうとしたシュウを止めたのは、彼の左手だった。シュウの左手に灯の魂が宿ったことで、二人は音楽を通じて心を通わせ、ピアニストの道を目指すことに!?

まつおか・けんた●2013年6月、『週刊少年マガジン』26号(講談社)3月期マガジングランプリ奨励賞受賞。同12月、『週刊少年マガジン』52号の第91回新人漫画賞にて『デスペラード』が佳作受賞。14年、『マガジンSPECIAL』5号にてデビュー。19年、『少年マガジンエッジ』9月号より『左手のための二重奏』を連載開始。

『左手のための二重奏』(1〜4巻)

松岡健太
講談社マガジンエッジKC 693〜715円(税込)
写真=首藤幹夫
advertisement

編集部寸評

 

荒唐無稽だからこそ切実

死んだ天才ピアニストの魂が、不良少年の左手に憑依。左手の温かな演奏と、右手の力強い音を組み合わせて、少年は世界を目指す。要約すると荒唐無稽だが、煩瑣な現実に縛りつけられない分、登場人物の情熱が、まっすぐに読者の胸を射抜く。つまり少年マンガの王道だ。しかも本作が描くのは「少年」に留まらない。演奏家の道をあきらめた指導者、酒場のピアノ弾き、手を負傷した世界的音楽家―かつて挫折した大人たちが、少年と出会って再び前を向く。これは中年読者も燃えます。

関口靖彦 本誌編集長。まだ顔も描かれていない不良少年の父親が、このまま物語から退場するのか、いつか新たな奇縁が浮かび上がるのか、気になります。

 

誰かを想うことの強さ

不良中学生・シュウの左手には、天才ピアニスト・灯が宿っている……!? どんなファンタジーかと思いきや、青春ど真ん中の熱いピアノマンガ! 初心者のシュウがどんどんピアノにのめりこんでいく、その動機は「“灯”を伝える」こと。“灯”を伝えたいのはシュウだけじゃない。灯の親友・音理、灯に孤独を救われた少年・ノエル。よきライバル、そして頼もしい大人たちに囲まれて、荒れていたシュウが目標に向かって走り出すさまは、読んでいて快感だった。早く続きが読みたい。

鎌野静華 サンダルの季節になったので足の指にもジェルネイルを。どこに行くわけでもないですが少し夏気分になりますね。早く海外旅行に行きたいな〜。

 

嘘偽りない魂の共鳴による救済の物語

片手が別人格というと『地獄先生ぬ〜べ〜』の鬼の手や『寄生獣』のミギーを思い出すが、本作のそれは死んだ美少女。「ピアノで世界を笑顔に」という指針が明確にあり、彼女に命を救われた不良の主人公がそれを代行する。つまり夢以外に失うものがないのだ。この狂気が、周囲を巻き込んでいく。象徴的だったのは、ある理由からピアノを諦めた男・撃鉄のグレゴ。周介×灯という“素材”に触れた彼は、自分がその才能をどこまで伸ばせるのかと興奮する。とても生々しいシーンだ。

川戸崇央 『ルポ西成』の著者・國友公司さんによる路上生活取材が7月23日、都庁の真下でスタート。コロナ禍の東京における路上生活を一冊の本にまとめます。

 

熱あるピアノ音が聴きたくなった

歳を重ねるにつれ青春小説、マンガを読めなくなってきている。目標に向かってはキラキラ輝く主人公と仲間たち……。途中でページを閉じては私には感動できるピュアさは消滅した、と思っていたのに。本書は夢中で読んでしまった!! 衝撃的な第一話にぐいぐいひっぱられたことも大きいが、妹がピアニストを目指していて幼少期、鍵盤の音が何十時間も鳴り続ける実家を思いだしたり。演奏シーンの描写が秀逸でどれも情熱的で楽しそうで、ピアノにもマンガにもまた触れたくなった。

村井有紀子 最近“犬が飼いたい病”が悪化し毎日のように動画サイトで犬のブラッシング動画を見ては癒されています。なかなか決心つかないんだよなあ。

 

左手と右手で奏でる、新しい音!

人生に絶望したヤンキーが、亡きヒロインを自らの左手に憑依させ、彼女のために生きることを決意する―せ、設定がアツすぎる……!! と滾りつつ、誰かのために生きるって素敵だけどあやういぞ、と勝手にシュウ君を心配していたのだが、杞憂でありました。左手のために動かしていたはずの彼の右手は、次第に独自の音色を奏ではじめ、音色をバラつかせながらも、新しい音を生みだしていく。他者と共に生きていくことの楽しさと尊さ。読むほどにタイトルが深く胸を打つ。

西條弓子 酷暑&コロナのストレスを乗り切るため、33年間我慢していた自宅へのカキ氷機導入を決心。食べすぎることでしょう。皆さまも良い夏を!

 

“好き”であるという才能

技術やセンス、才能にはさまざまな形があるけれど、夢中になれるものを“好き”でいられること、それが一番の才能だと思う。音楽の世界は厳しい。灯の夢を継ぎ、ピアノ未経験のシュウが、ピアニストを目指すことも決して容易な道ではない。しかし、彼のピアノへの想い、“好き”という気持ちが彼の才能を開花させていく。「罪滅ぼしや義理でピアノ弾いてるわけじゃない 好きだからピアノを弾くんだ」。真っ直ぐな想いを原動力に、この先、彼らがどんな音を奏でていくのか、見届けたい。

前田 萌 物心つく前からピアノを習っていましたが、全く楽譜が読めませんでした。目と耳で覚えて演奏するという……。音感は鍛えられたかもしれません。

 

音楽の力で、きっと人生は変わる

自分の学力や生活圏で「何となくの将来像」が想像できてしまう“中学生”という年代。自分の人生なんて終わってる、と感じていた主人公が音楽と出会って人生を変えていく様子は、とにかく情熱的。主人公が生まれて初めて知った「努力する楽しさ」が、コマを飛び越えて読み手側に伝わってくる。楽器経験者は、演奏シーンの音が風のように吹き抜ける描写に「あの感覚、分かる!」と感じる人もいるのでは。ひたむきな熱意に溢れた物語が、読者の人生も変えてくれる気がした。

細田真里衣 子供の頃『貴婦人の乗馬』という曲に一目惚れしピアノ未経験ながら練習。右手一節だけ弾けるように! 左手は挫折しましたが、また練習しようかな。

 

読者の声

連載に関しての御意見、書評を投稿いただけます。

投稿される場合は、弊社のプライバシーポリシーをご確認いただき、
同意のうえ、お問い合わせフォームにてお送りください。
プライバシーポリシーの確認

btn_vote_off.gif