気鋭のノンフィクション作家が安倍・菅政権の終焉に切り込む! 歪んだ政治の実態を明らかにする『墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』

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公開日:2021/9/22

墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか
『墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』(森功/文藝春秋)

 9月3日、菅義偉首相が自民党総裁選の出馬見送りを表明。2012年に発足した第二次安倍政権とその禅譲によって生まれた菅政権はこれで終焉を迎えた。ノンフィクション作家・森功の新刊『墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』(文藝春秋)は、この安倍・菅政権がいかにして機能不全に陥り、自滅していったのか、その内実に迫るドキュメンタリーだ。

 日本の憲政史上最長の内閣となった安倍内閣。第二次安倍政権において“安倍一強”と呼ばれた長期政権を支え、政策を遂行してきたのが、官邸官僚と呼ばれる首相官邸に籍を置く取り巻きの役人たちだ。“総理の分身”と称された最側近の今井尚哉首相秘書官を中心とする官邸官僚たちは、各省庁の官僚幹部の人事を決める内閣人事局の力を背景に霞が関を牛耳り、マスコミをコントロールし、政策を操作していくことで「官邸一強支配」と呼ばれる体制を実現してきた。本書の前半では、そうした盤石に思えた第二次安倍政権がコロナ禍における迷走によって内部のパワーバランスが変わり、政権禅譲へと至る過程を明らかにしていく。

 そして、歴代内閣3位という高い支持率を得て菅内閣が誕生。安倍元首相の最側近だった今井首相秘書官に代わって新政権を支えていくことになるのが、和泉首相補佐官と杉田官房副長官のふたりの大物官邸官僚だ。本書はこの菅新政権の強権人事の実態を詳しく報じている。たとえば「ふるさと納税」について制度の問題点を指摘したことで左遷人事の憂き目にった当事者の証言は実に生々しく、その理不尽さに心底うんざりさせられた。権力を笠に着た強引な人事こそが、官邸支配を作り上げた大きな要因になっていることがよくわかる。この件は典型的な恐怖人事として各省庁の幹部官僚たちをひどく怖がらせたという。

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 さらに、放送事業会社「東北新社」重役として総務官僚への接待が大きな騒ぎになった菅首相の長男やJR利権を与えられたという実弟などの親族や、複数のスポンサー企業に関するさまざまな疑惑についても綿密な調査と関係者への徹底した取材で鋭く切り込んでいく。

 政策にはビジョンがなくブレーンや優遇業者からの受け売りばかりで、取り巻きには自分に忠実なイエスマンを集めて異を唱える者は容赦なく切っていく――為政者のそうした姿を見ていると、もはや彼らにとって政治とは権力保持と利益誘導でしかないのではないかという気すらしてくる。こうした現代日本の政治の“現実”に、思わず絶望的な気持ちにもなる読者も多いだろう。官邸一強を実現した政権と官邸官僚には、国民の存在が蚊帳の外に置かれているようにしか見えないからだ。著者は次のように指摘する。

霞が関の官僚には「吏道」という言葉がある。(略)吏道は国民に仕えるあるべき姿を示す表現だといえる。だが、官邸官僚たちには、国民に尽くすという意識があまりに希薄だったように感じる。

 国民の日常生活を日々脅かすコロナ禍において、そうした政権が迷走し続けて、支持を失うのは当然だったのかもしれない。そして「官邸一強支配」の崩壊は、今後の日本にどのような変化をもたらすのか。近年の日本政治を総括するための重要な視点を与えてくれる1冊だ。

文=橋富政彦

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