浅野いにお・和山やま推薦! 映像化常連の漫画家・真造圭伍の真骨頂『ひらやすみ』の面白さ

マンガ

公開日:2021/10/12

ひらやすみ
『ひらやすみ』(真造圭伍/小学館)

 心が沈んでいるとき、日常の中に幸せを見つけられれば、きっと大きな救いになる。

 9月、ビッグコミックで連載中の『ひらやすみ』(真造圭伍/小学館)1巻が刊行された。真造圭伍さんは映画『森山中教習所』やドラマ『トーキョーエイリアンブラザーズ』の原作者としても知られている。著者の真骨頂とも言われる本作は、帯に浅野いにお、松本大洋、和山やまといった人気漫画家が推薦文を寄せている「癒し」の物語だ。

“あんま考えたことないんだよなぁ。「幸せ」とか?”

 序盤、主人公で29歳のフリーター・生田ヒロトは仲良くしている近所のおばあさんにそう言う。本作は彼がおばあさんから一戸建ての平屋を譲り受けるところから始まる。そこに美大に合格した18歳のいとこ・なつみが上京してきて、ヒロトとなつみの二人暮らしが始まる。

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 なつみの学生生活が始まるが、友達がなかなかできず辛くなって大学を休み始める。ヒロトはなつみの大学生活がうまくいっていないことになんとなく気づきながらも、いつもどおり接する。ただヒロトのなにげない行動や言葉は、なつみをやんわりと励ます。そして、ヒロトが何かをするのではなく、彼女自身が変化していくのだ。

 高校からの友達・野口ヒデキはなつみを見て大丈夫なのかとヒロトに聞くが、ヒロトは「今はきっと慣れない環境にとまどってるだけだよ。大丈夫 なっちゃんなら」と返す。ヒデキがそれを聞いて「まぁヒロトがそういうなら大丈夫か」とほほ笑んでいる姿からも、ヒロトの人柄の良さがわかる。

 1巻の中心はなつみのエピソードだが、ヒロトもまた新しい出会いがあった。好みのタイプの女性を見ると緊張してしまうヒロトだが、好みのタイプなのになぜかいつもどおり接することができる女性がバイト先に客として来たのだ。不動産会社に勤務する33歳の立花よもぎである。よもぎは激務で疲れ果てていた。彼女はヒロトの気楽そうな姿を見て苛立つ。

“忙しく働いてる私がバカみたい…”

 たしかに、はたから見てもヒロトはマイペースである。二人の関係がこれからどうなっていくのかも注目ポイントだ。

 属しているコミュニティに馴染めない、激務でプライベートを満喫できない。どちらもなつみやよもぎだけではなく、多くの人が抱える普遍性のある悩みである。

 1巻の最後にはヒロトに平屋を譲ったおばあさんとヒロトのエピソードも収録されている。ヒロトのどのような行動がおばあさんの孤独を癒したのかがよくわかり、彼の人物像が具体的に浮かび上がってくる。心が疲れているときにおすすめしたい漫画だ。

文=若林理央

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