天才科学者たちの野望は希望か背徳か――「不老不死ビジネス」という神への挑戦を描いたノンフィクション!

ビジネス

公開日:2021/10/26

『不老不死ビジネス 神への挑戦 シリコンバレーの静かなる熱狂』(チップ・ウォルター:著、ナショナル ジオグラフィック:編集、関谷冬華:翻訳/日経ナショナルジオグラフィック社)

 年齢を重ねるごとに老いていくのは当然のこと。現行の日本の制度では40歳以上になれば介護保険料を収めることになるので、その辺りから“老い”が迫ってきていると実感する人も多いだろう。しかし、世の中には不老不死を研究する驚きの野望を抱いている研究者たちがいる。2021年8月23日(月)に発売された『不老不死ビジネス 神への挑戦 シリコンバレーの静かなる熱狂』(チップ・ウォルター:著、ナショナル ジオグラフィック:編集、関谷冬華:翻訳/日経ナショナルジオグラフィック社)には、その野望の一端を垣間見ることができる。

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 本書は従来の老年医学やアンチエイジング医療とは一線を画する、革新的な長寿技術を追求する人々や企業の最前線を克明に語る、迫真のノンフィクション。プロローグ「死に負けるな」から始まり、4つのパートに分けて構成されている。

「アップル会長アート・レビンソン」や「ヒューマン・ロンジェビティ社」「投資家ビル・マリス」などのビジネスに関する記述はもちろん、とっかかりとして「人はなぜ死ぬか」「忍び寄る老いの影」といった、不老不死へのニーズについても分かりやすく書かれているため、読みやすい構成と感じることだろう。

 米国では、グーグルやアップル、アマゾンのような巨大企業が、名もないスタートアップ企業に巨額の投資をし、著名な生物学者、医学者、遺伝子工学の研究者、コンピューター科学者の引き抜きにしのぎを削っている。それは、従来とは異なるアプローチで新技術を開発し、人間の老化を根本から抑えることを目指しているからだとか。

 その結果、がんや心臓病、アルツハイマー病などの老人性疾患が消滅し、飛躍的な長寿社会の到来が期待される。さらにその先には、不死の世界すらも不可能ではないとする見方もあるようだ。

 このような不老不死ビジネスの最前線や、最新の研究動向に加え、次世代テクノロジーに賭ける米国の企業家や投資家たちの熱意、シリコンバレーの人脈図、ベンチャー企業誕生までの裏側がつぶさに描かれている同書。中でもグーグルが2013年に設立し、完全な秘密主義の中で活動している新興バイオ企業、キャリコ誕生までの経緯を迫った部分は、一番の読みどころだ。

 まったく新しい観点から不老不死を見つめるビジネスは、希望か、それとも背徳か……。神への挑戦が現状ではどう進行しているのか、本書で確かめてみては。