引きずり込まれる宮崎夏次系の世界。想いだけではなく色々なものが爆発する、切ない恋物語『あなたはブンちゃんの恋』

　2021年9月22日に、宮崎夏次系『あなたはブンちゃんの恋』（講談社）の最新3巻が発売された。本作は、『スモールワールズ』が直木賞候補にもなった作家・一穂ミチさんや、ミュージシャン・King Gnuの井口理さんがおすすめしていると話題の漫画で、女×女×悪霊の三角関係を描いた作品である。

　主人公のブンちゃん（女性）は長年、幼馴染である三舟さん（女性）に片思いをしている。同じく幼馴染でブンちゃんのことが好きだったシモジ（男性）はプールの事故で亡くなってしまい、ブンちゃんのパスケース（ぬいぐるみ）に乗り移り「悪霊」となる。その後、大人になってもブンちゃんは、相変わらず告白もできないまま三舟さんに片思い。自分のことを友達としか認識してくれない三舟さんのことを忘れようと、職場の同僚と付き合おうともしたが、三舟さんのことはどうしようもなく好き。ブンちゃん、三舟さん、シモジ、それぞれの恋模様を描いた恋愛冒険譚なのである。

　コミックス最新3巻でも、三舟さんとブンちゃんの関係が描かれつつ、新キャラクターも何人か登場し、登場人物の内情が徐々に描かれていく。

advertisement

影響されやすいブンちゃん

　本作の魅力は、ブンちゃんの異常とも言えるほどの行動力ではないだろうか。通常、恋物語というと内面の葛藤を表現したものが多い。しかし、ブンちゃんの場合は行動の描写により、その葛藤の様子が描かれる。時には自分の気持ちを抑えられずに、グリーンランドまで突発的な旅行に出かけてしまったりもする。

　そして、なによりもブンちゃんはとても影響されやすい。その行動のほとんどは外部のちょっとしたものからの影響。そして、その素直さがとても愛しくて笑えてしまうのだ。

　例えば、ブンちゃんが三舟さんのことを忘れたいと思ったとき、雑誌の恋愛相談コーナーにあったアドバイスに従って、「代わりを見つけること」にする。

　またある時は、家電量販店で偶然流れていたテレビの言葉に影響される。

　ついには、「石ころぼうし」をかぶりたいという想いから、髪型まで影響されてしまう……。さらに本屋で見かけた、尼僧が書いた本にも影響される。宮崎夏次系作品は、画力の高さも魅力だが、ギャグセンスの高さも本当に魅力的である。

　そして、最新3巻でもアニメ動画に影響されるシーンが……。

　恋をすると、不安や葛藤から色々と調べて影響されてしまうことが多い。ブンちゃんの行動を聞くと極端に思えるかもしれないが、漫画で読むと自然な流れに思えてしまうのが、すごい。

最新巻では、より内面の描写へ

　そして最新の3巻では、より深くキャラクターの内面が描かれる。

ブンちゃんは昔から　好きなものをみつけると
ずーっと食べ続けちゃうんだよね…（中略）
いつまで三舟さんを大事に取っておくつもり？

　学生時代の回想シーンも交えながら、印象的な絵柄で心に関わる描写が続く。本当にずっと食べ続けてしまうという極端さにも、宮崎夏次系らしさがうかがえる。

　その一方で、内面を描くだけではなく、行動することの大切さを明確にするシーンもある。

言ってないのに伝わってるでしょなんて　ズルじゃん…

　読者は登場人物を外側から見ているからこそ、内面まで含めてわかったつもりで読み進めてしまいがちである。しかし、伝えたいことは口に出さないとわからないこともある。夜の静寂さに重なって当たり前のことを指摘するセリフに、ハッとさせられる。

　圧倒的な画力、そして予想がつかない展開。第4巻でまた宮崎夏次系の世界に引き摺り込まれるのを心待ちにしている。

文＝村治けい