TVアニメ『鬼滅の刃』の残酷さの中に光る! 作画監督・松島晃氏がもたらした「清潔感」/ 無限列車編第3話

アニメ

公開日:2021/10/27

鬼滅の刃 8 (ジャンプコミックスDIGITAL)

著:
出版社:
集英社
発売日:
鬼滅の刃
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 落ちていく、眠りの中へ。深く仄暗き夢の底へ。強力な鬼である下弦の壱・魘夢の血鬼術によって、竈門炭治郎たち鬼殺隊のメンバーは眠らされてしまい、心を溶かすような幸せな夢を見る。魘夢は夢を見ている人間たちの心の隙を突き、協力者たちに精神の核を破壊させるという策をとっていた。まんまとその罠に落ちてしまった炭治郎たちの運命は――。

 TVアニメ「鬼滅の刃」無限列車編の第3話「本当なら」は、原作コミックスでは、第7巻に収録された第55話「無限夢列車」、第56話「目覚めろ」、第57話「刃を持て」にあたるエピソード。竈門炭治郎の夢、我妻善逸の夢、嘴平伊之助の夢、煉獄杏寿郎の夢が順に描かれ、それぞれの心の裡にあるものが描かれていく。アニメ版では原作コミックスのコマの構成を巧みに入れ替え、キャラクターの内面に迫るような展開を作り上げている。なお、今回織り込まれたTVアニメ用の新規カットは我妻善逸の寝顔の1カット。あどけない善逸の眠り顔が愛おしい!

 さて、無限列車編第3話で注目したいのは、そのキャラクターの描写のこまやかさだ。

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 このアニメ版では、原作コミックスを描いた吾峠呼世晴先生の独特な筆致を再現するために様々な作画ルールが敷かれているのだという。

 ひとつ目の特徴は、線の太さ。

『鬼滅の刃』の原作コミックスの登場人物を描く線(輪郭線など)は太く、ペンの入りと抜きがハッキリと描かれている。アニメではその太い線のタッチを再現するために、「太い線を塗る」という作業をしているのだそう。わかりやすく説明すると、輪郭線を二重に描き、その線と線の間を黒く塗りつぶすことで、ペンの太い線を再現しているのである。

 こういった、輪郭線を強調した作画を採用するアニメ作品は、近年いくつか見られる。その多くは撮影処理で線を太くする作業をしている。アニメ『鬼滅の刃』では、作画で線を太くする作業をしていくことで、より丁寧な画面を作っているのである。もちろん作画の労力は増してしまうが、原作コミックスの雰囲気を再現するには欠かせない作業と言えるだろう。

 ふたつ目の特徴は、瞳の描写。

『鬼滅の刃』の原作コミックスでは、登場人物の瞳が独特な形状で描かれている。一見、目の玉が丸く描かれているように感じられるが、顔のアップのコマをよく見ると、登場人物の瞳(目の玉)は多角形や歪んだ円や複数の円で構成されていることがわかる。炭治郎の瞳は多角形、善逸の瞳は卵型に伸びた円、伊之助の瞳は途切れた円、煉獄さんの瞳は大小の円を重ねて描かれているのだ。こういった原作コミックスの瞳の表現は、アニメでも丁寧に再現されている。瞳によって、登場人物の個性を際立たせているのだ。

 3つ目の特徴は、涙の描き方。

 原作コミックスでは、涙の粒を丸く大きな水の玉として描いている。炭治郎たちが泣くシーンでは、瞳から大きな涙の粒があふれ出て、ぽろりぽろりとこぼれ落ちていくように描かれている。この原作コミックスの描写を受けて、アニメ版においても、涙の粒がかなり大きめに描かれている。無限列車編第3話では炭治郎が泣きながら家族から離れていくシーンがあるが、炭治郎の瞳からあふれる涙の粒はかなり大きい。

 この描写は、ともすれば70年代のギャグマンガを思わせる表現のようにも映るが、『鬼滅の刃』ではストーリーのクライマックスに大きな涙を描くことで、登場人物の感情の揺れの大きさを表しているようで、とてもエモーショナルに、印象的に感じられるのだ。

 そして、4つ目の特徴は、炭治郎の手だ。

 原作コミックスでは、炭治郎の手は戦いと修業を重ねるたびに、マメだらけになり、節くれだっていくように描写されている。アニメ版でもこの原作コミックスの描写を受けて、炭治郎の手にタッチを入れ、細かく傷ついた手を描いている。

 この炭治郎の傷ついた手については、原作コミックス第2巻第13話「お前が」とアニメ竈門炭治郎 立志編の第7話「鬼舞辻無惨」で印象的に描かれている。このエピソードでは、婚約者を鬼に奪われた男が、傷ついてボロボロになった炭治郎の手を見て、「痛ましい手(中略)少年の手ではなかった」と気づき、炭治郎の人知れぬ苦闘を察する場面がある。炭治郎の手の傷によって、ここまで戦い続けてきた彼の足跡を表現する。まさに『鬼滅の刃』ならではの表現と言えるだろう。

 こういった『鬼滅の刃』ならではの細かい表現をTVアニメで実現しているのが、キャラクターデザイン・総作画監督である松島晃氏を中心とするufotableの作画陣。

 松島氏は10代からアニメーターとして活躍し、アニメ「るろうに剣心」(1996年~)シリーズやアニメ『HUNTER×HUNTER』(1999年~)に参加。OVA『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 星霜編』(2001年)ではキャラクターデザインを務めるなど、幅広い実績を持つ実力派だ。注目しておきたいのは、お嬢様ものとして名高い「マリア様がみてる」シリーズ(2004年~)のアニメ版キャラクターデザイン、作画監督を務めていること。清楚で美しい少女たちの関係を丁寧に描いたこの作品は、高い評価を集めた。

『鬼滅の刃』の制作において、松島氏は全話・全カットの作画をチェックしているのだそう。血なまぐさいシーンであっても露悪的にならずに、映像全体が清潔な雰囲気を保っているのは、丁寧な作画によるところが大きいのだろう。

 少年マンガ作品の熱さや情感をしっかりと描きながらも、原作コミックスにあったこまやかな特徴を、アニメの作画で再現する。まさに松島氏とスタッフの力が、この作品を面白いものにしているのである。

 いよいよ覚醒のとき。夢から目覚めたその瞬間、少年たちは真の敵と対峙することになる。ここから人間と鬼の直接対決が始まる! 次回の放送が待ち遠しい!!

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