「今月のプラチナ本」は、東畑開人『心はどこへ消えた?』

今月のプラチナ本

公開日:2021/11/6

心はどこへ消えた?

著:
出版社:
文藝春秋
発売日:
今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『心はどこへ消えた?』

●あらすじ●

この20年、心は消滅の危機にさらされている。物が豊かな時代は終わり、人々は目の前のことでせいいっぱいだ。日々の生活には金銭的にも時間的にも余裕のない人が多く、心はすぐにかき消されてしまう。幸福な余生を送る老婦人、マッチョなベンチャー企業社長、段ボールの中に引きこもる小学2年生、悲劇のヒロインを演じる20代女性。街のカウンセリングルームには、今日も様々な人がやってくる。命がけの社交、過酷な働き方、綺麗すぎる部屋、自撮り写真、段ボール国家、巧妙な仮病など、カラフルな小さい物語たちから臨床心理士・公認心理師の著者が「心とは何か」という直球の問いに迫る、渾身のエッセイ。

とうはた・かいと●1983年生まれ。臨床心理士・公認心理師。専門は臨床心理学・精神分析・医療人類学。京都大学教育学部卒、京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。沖縄の精神科クリニックでの勤務を経て、現在、十文字学園女子大学准教授。2017年に「白金高輪カウンセリングルーム」を開業。19年、『居るのはつらいよ』(医学書院)で第19回大佛次郎論壇賞、紀伊國屋じんぶん大賞をW受賞。その他著作に15年『野の医者は笑う―心の治療とは何か』(誠信書房)、17年『日本のありふれた心理療法―ローカルな日常臨床のための心理学と医療人類学』(誠信書房)など。

『心はどこへ消えた?』

東畑開人
文藝春秋 1650円(税別)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

別の物語を新しく始める力

心とは何なのだろうか。その捉えがたいシロモノは人の中にあって、弱ったり病んだりする。それを著者は、言葉と物語で捉えていく。何回もカウンセリングを重ね、クライエントの言葉を引き出し、少しずつ捉えていく。クライエントは語ることで自分の心を発見していく。「自分でも気が付いていなかった物語が分かち合われることは、別の物語を新しく始める力になる」「時間をかけて紡がれた物語。それは心を変化させる力がある」。それは私たちが本を読む理由であるかもしれない。

関口靖彦 本誌編集長。「わかってくれない」は私たちの人生のデフォルトだと思うのだ。という一文にも胸を射抜かれた。引用したい文章だらけの本です。

 

「だからなんだ」が詰まってる

昨年世界を覆った未知のウイルス。未来が壊れた日。〈そういうとき、人は興奮してしまう。〉〈「何かしなくては」と切迫する。〉の一文にぶんぶん首をタテに振った。納得、だからなのか。リアルもSNS上も異常だったし、私もおかしかった。近年体調が良くないのは何だろうと考えていたけれど、本書を読んではあの日以降他者に心をあまり渡せていないからだと気付いた。心のための知識や、自分への心の気づきを、著者のカウンセリングを受けた誰かの物語から優しく喚起してくれる本。

村井有紀子 BTSが久々にオフラインで開催するLA公演のチケッティングに参戦、必死にゲット。獲得した席のリセール価格30万円超……すご……。

 

笑えて泣ける、疑似カウンセリング体験を

「おかしい。心が見つからない。心はどこへ消えた?」(序文より)という問いから始まるにもかかわらず、本書にはいくつもの“心”が登場する。涙が出るほど切ないおはなしや他人事とは思えないような身につまされるおはなしが絶妙なユーモアにくるまれて提供され、だんだん“心”というぼんやりしたものの形が見えてくる。そして本を閉じた時、不思議に心が軽くなっているのを感じる。優秀でちょっとミーハーなバジー心理士のカウンセリングを受けているような、心救われる一冊。

久保田朝子 毎日寒暖差が激しく、体調を崩しがちです。今はやりのミトコンドリアを活性化してくれるサプリを飲み始めました。

 

〈メールで卓球〉〈脳内都知事〉

とにかく文章が良い。序文だけでもぜひ読んでみてほしい。この嵩に意味があるのだ。さらに読み進めると、3つの《場所》が現れる。大学、カウンセリングルーム、そして著者の心だ。行き来するうち、自分の実体が取り返されたように感じる! 世界にはたくさんの言葉があふれていて、それを生み出したのは誰だ? 「これをやってはいけない」「あの人はこう言うに違いない」「私は役に立たないのではないか」。いま、真面目な人ほど胸に広がる呪言か。本書とともに、まだまだ生きる。

川戸崇央 本誌連載をまとめた声優・櫻井孝宏さんのエッセイ集『47歳、まだまだボウヤ』が好評発売中。声のプロが文字で表現した“肉声”を是非ご一読ください。

 

「心は必ず二ついる」

金言だらけなのである。『こころの処方箋』を初めて読んだ衝撃ふたたび。なかでも痺れたのが「苦しい気持ちを感じるのが苦しいとき、私たちは周りを苦しくさせる」の一節……そうであった、メンヘラみは他者に流れ込むのであった(経験有)。「心はどこにあるのか」という問いに、東畑さんは「心はもう一つの心の中でのみ存在する」と答える。私たちの心は他者がいなければ存在すらできないらしい。なんとヘタレでめんどくさくて愛おしい。読んだらきっと、誰かに会いたくなっている。

西條弓子 雑談が不足するとすぐ病むわたくし。先輩にエアフレンドというAIを教えてもらったのですが、愚痴を言うと正論で切り捨ててきます。グハッ。

 

自分の心って、ケアしたことあったかな

心のケアは、難しい。「心は自分の持ち物」だと思うと限界に気づかず無理してしまいがちだが、そういえば、今まで心のケアについて考えたことはあっただろうか? 本書では「学校や職場に『今日は行きたくないなぁ』と思っている時点であなたはいつもと違う。」という。確かに、いつもの行動に支障を感じている時点で休むべきだ。働きすぎて疲れ果てたときにやってくる、「今日はゴロゴロしようよ」と囁くもう一人の自分。心の中の治療者を、私も大切にしたい。

細田真里衣 ふるさと納税の返礼品で、我が家にシャインマスカットがやって来た。あまりの美味しさに一瞬で食べ切り、緑の宝石は瞬く間に消えていきました。

 

変化をチビチビ舐める

「変化とは劇薬のようなものなのだ。一気飲みすると体を壊すけど、完全に拒絶しても体は悪くなる一方だ。だから、チビチビ舐めるのが良い」。本書で語られるこの言葉が好きだ。人間の心は急激な変化に弱い。変わりゆく現実に適応できないことってある。それでも人生に変化は訪れる。その時は、ゆっくりで良い。無理やり適応させようとするのではなく、変化をチビチビ舐めながら、少しずつ心を現実に慣れさせていけば良いのだ。背中を押してくれる金言が満載の一冊をぜひ。

前田 萌 最近、寒くなってきたので、我が家ではホットカーペットを敷くようになりました。スイッチを入れるといつの間にか愛犬がカーペットの上に……。

 

心を見失った人々の物語

臨床心理士である筆者のもとに訪れる人々の背景には、様々な物語がある。彼らの物語の途中で複雑に絡まってしまった糸を、カウンセリングで時間をかけて解いていく。その先にあるのはそれぞれの心が抱えていた「本当の叫び」。三者三様であるクライエントのエピソードを読むごとに、ふと思う。果たして私も自身の心に向き合えているだろうか。ついつい自分を大切にすることをおざなりにしてしまいがちな日々を送っている人たちも、読後にはすっかり心が癒されているはずだ。

笹渕りり子 今号から編集部に加わることになりました。早速読まなければならない本に囲まれて幸せの悲鳴。これからたくさんの作品に触れるのが楽しみです!

 

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この記事で紹介した書籍ほか

心はどこへ消えた?

著:
出版社:
文藝春秋
発売日:
ISBN:
9784163914305

ダ・ヴィンチ 2021年12月号

出版社:
KADOKAWA
発売日:
ISBN:
4910059871215