警察はどんな人に職務質問をするの? 元警察官の著者が明かす「街頭の真剣勝負」の全貌

社会

公開日:2021/11/17

職務質問
『職務質問』(古野まほろ/新潮社)

 街中で警察官から「ちょっとお時間よろしいですか?」と声をかけられる職務質問は、テレビ番組でもおなじみの警察活動。だが、私たち市民にとっては謎が多い。どんな人が声をかけられるのか、もし職務質問された場合はどう対応すればいいのか、など考えたことがある人は意外に多いのではないだろうか。

 そんな「街頭の真剣勝負」の実態を学べるのが、『職務質問』(古野まほろ/新潮社)。本書では、元警察官の著者が職務質問に関する謎を徹底解説。警察は何を根拠に「不審者」と判断するのか、徹底拒否は可能なのか、など誰に聞けばいいのか分からなかったクエスチョンにアンサーをくれる。

職務質問される「不審者」の定義とは?

 職務質問の法的根拠は警察官職務執行法(警職法)第2条と、それについての裁判所の解釈(=判例法)。警職法第2条の第1項によれば、警察官が職務質問できる相手は次の通りだ。

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①異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者(=不審者)

②既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者(=参考人的立場の者)

 では、①の場合、どんな人が「不審者」だと思われるのだろうか。

 私たちが思い浮かべる「不審者」はおそらく、動作が怪しい人物。だが、著者いわく、警職法では警察官に主観的・恣意的・ただの思い込みで職務質問をかけることを許していないため、警察官は客観的な合理性があるかどうかを判断し、職務質問を行うのだそう。職務質問における「不審性」は、「一見して怪しい」や「自分のチェックポイントに引っ掛かる」というような単純なものではないのだ。

 また、警察官は事件の犯人像のような事前に得ている情報などを活用し、職務質問を行うこともあるという。時折、一見普通にしか見えない人が職務質問されている光景に出くわすのには、そんな理由があるのだ。

 なお、職務質問されることが多いという方は挙動がTPOにそぐわなかったり、浮いていたりしている可能性が高いと本書には記されている。声をかけられないためには、自分の不審性は何なのかと考え、生活習慣や行動パターンを見直してみるのがよさそうだ。

永遠のテーマ! 職務質問は「任意」か「強制」か?

 職務質問は、相手方の権利義務を変動させることのない「任意活動」。警職法の規定に基づき、何らかの犯罪の嫌疑がある不審者に対して不審性を解明するために行われる、捜査のきっかけを得る活動だ。

 だから、職務質問を受けた場合、理論的にはそのまま立ち去るのも質問に回答しないのも自由。実際、警職法第2条第1項に規定されている警察官の権限は「停止させて質問することができる」というもの。警察官は相手方に停止義務を課したり、質問に対する回答義務を負わせたりすることはできず、あくまでも相手方の自由な意思で停止するように求め、そのための説得ができるという権限しか持っていない。

 だが、職務質問はしばしば「任意か強制か」と議論されることがある。強制活動が許されていないのに、なぜこうした声が上がるのか。その理由は市民や警察、裁判所が「任意」と考えるものの間にズレが生じることがあるからだと著者は指摘する。

 本書に記されているのだが、実は裁判所は職務質問においては、必要性、緊急性などの大小に応じ、具体的な状況をふまえて「これなら仕方ない」と言える限度であれば、強制にわたらない有形力の行使(=一時的な実力の行使)は認め得るという姿勢を貫いているよう。

 例えば、相手方が立ち去ろうとする時(≒歩いて逃げようとする時)は、停止させるため警察官が相手方を追跡することは理論的に適法。しかし、これは絶対にいつも適法というわけではなく、状況や常識からして「それならばやむを得ない」と考えられる時に適法であるということなのだとか。

 職務質問はまったく同じ事情や状況であることがひとつとしてなく、警察官は違法と適法の境界線を考えながら有形力を行使することがあるため、市民や裁判所が「任意」と考えるものに必然的にズレが生じ、「任意か強制か」というフレーズが永遠の流行語になっているというのだ。

 なお、著者によれば、職務質問を受けた際はいきなり直接接触や物理的接触、肉弾的接触をされたり、カバンを取り上げられる・開けられるなどの実力行使をされた時以外は、全面協力するのが良いのだそう。

 本書には職務質問された時に役立つ、市民側に立った「対応マニュアル」も掲載されているので、いざという時に慌てないよう、ぜひ情報を得てみてほしい。

文=古川諭香

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