沢城みゆきと逢坂良太……遊郭編の鬼役声優が魅せる、リミッターを超えた芝居の衝突がたまらない/TVアニメ『鬼滅の刃』第7話

アニメ

公開日:2022/1/22

鬼滅の刃
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 ふたつの兄と妹の絆が交錯する。鬼の妹が追い詰められたとき、鬼の兄が現われた。どんなときも人間であろうとする兄妹と、鬼になって無法の限りを尽くす兄妹。そこに仲間たちが駆けつけて――。遊郭編の主要なキャラクターがようやく一堂に会する。いよいよ本格的な戦闘が始まる。

 TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編の第7話「変貌」は、原作コミックス第10巻第83話「変貌」から第86話「妓夫太郎」までをアニメ化している。異形に変貌した禰豆子は上弦の鬼・堕姫を圧倒する。堕姫に斬られても、斬られても、禰豆子の身体はすぐに再生する。激怒した堕姫に、禰豆子は鬼だけを燃やす血を放ち、堕姫を焼き尽くしてしまう。禰豆子は鬼としての本能に目覚めたように堕姫に容赦のない一撃を繰り出し、遊郭の中にいた遊女たちを見て襲い掛かろうとする。そこに音柱の宇随天元が合流。竈門炭治郎は禰豆子を抑えこみ、幼いころに母が歌っていた子守唄を聞かせる。ようやく禰豆子が怒りを鎮め、眠りについたころ、宇髄は堕姫と対峙。堕姫の頸をあっけなく斬り落としてしまう。だが、堕姫は頸を斬られても、消滅しなかった。堕姫の体内に潜んでいた、もうひとりの鬼が出現。妓夫太郎と名乗る、その鬼は堕姫の兄だった。兄と妹の頸を同時に斬らなくては倒すことができない。たちまち炭治郎たちは窮地に追い込まれてしまう……。

 堕姫の兄鬼となる妓夫太郎は陰湿で惨忍な性格。語尾を「なあ」「なああ」「なぁあ」と伸ばすようなねちっこいしゃべり方をするキャラクターである。この第7話の放送前から、原作コミックスのファンの間では堕姫の兄・妓夫太郎役を務める声優のキャスティングが話題になっていたのだ。

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 アニメ『鬼滅の刃』で、炭治郎が対峙する鬼は、10年以上のキャリアを積み、主演級の経験があるベテラン声優が担当している。

 鬼の首領を務め、禰豆子を鬼に変えた宿敵・鬼舞辻無惨は『天空戦記シュラト』で日高秋亜人役を務めた関俊彦。炭治郎たちが最初に戦う鬼・お堂の鬼を演じたのは、『新機動戦記ガンダムW』でヒイロ・ユイ役を務めた緑川光。炭治郎たちが鬼殺隊に入隊するための試練「最終選別」で戦った鬼・手鬼は『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズでディオ・ブランドー役を務めた子安武人。炭治郎が最初の任務で戦った鬼・沼の鬼は『テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス』でスレイ役を担当した木村良平。そして炭治郎を追うコンビの鬼・矢琶羽と朱紗丸を演じたのは、『コードギアス反逆のルルーシュ』でルルーシュ・ヴィ・ブリタニア役を演じた福山潤と、『モーレツ宇宙海賊』で加藤茉莉香役を演じた小松未可子。かつては鬼舞辻直属の配下の十二鬼月だった鬼・響凱を担当するのは『テニスの王子様』で跡部景吾役を務める諏訪部順一。そして那田蜘蛛山で現れる下弦の伍・累は『takt op.Destiny』で 朝雛タクト役を演じた内山昂輝。いずれも作品を背負って立つ力量を持つ声優が、炭治郎の前に立ちはだかってきたのだ。

 今回の遊郭編のアニメ化が発表されたあと、堕姫役を沢城みゆきが務めることが明かされた。彼女は十代のころから声優を務め、数々の役どころを歴任。国民的なアニメ作品『ルパン三世』ではファムファタルなヒロイン・峰不二子役を演じ、50年以上の歴史を持つアニメ作品『ゲゲゲの鬼太郎』では主人公・鬼太郎役を担当している。演じる役柄は幅広く、少年役・少女役から妖艶な美女まで多彩に表現する、間違いのない実力を持つ声優のひとりだ。

 彼女が演じた堕姫は、恐ろしかった。

 蕨姫花魁として遊女や禿たちをいじめいたぶり、我妻善逸が扮する善子を「醜い」となじる。そして遊郭の女将さんに逆らい、残忍に殺す。ひとたび、鬼舞辻無惨が現れるとおしとやかな従順さを見せ、炭治郎が剣を抜いて対峙しようとすると、歯牙にもかけずに格の差を見せつける――。いくつもの顔を持つ堕姫を見事に演じ切っていたのだ。

 その堕姫の兄・妓夫太郎ははたしてどんな芝居をするのだろうか。原作コミックスで兄鬼の存在を知っているファンたちは、第七話がオンエアされるときを楽しみにしていたのである。

 第7話が放送され、エンドロールで妓夫太郎を担当する声優が明らかにされた。

 妓夫太郎役は逢坂良太。

 これまでにアニメ『つり球』(真田ユキ役)や『ダイヤのA』シリーズの沢村栄純役、『ぼくたちは勉強ができない』の唯我成幸役といった役どころを演じてきた人気声優であり、近作では『東京リベンジャーズ』の橘直人役を担当。高校生ぐらいの主人公を演じることが多い声優の起用に、多くの原作ファンが驚いた。おそらく事前に予想できた人はごくわずかだっただろう。

 だが、そんな彼が演じる妓夫太郎は見事だった。ねちっこく、じわじわと追い詰めるようなしゃべり方はまさしく鬼そのもの。原作コミックスの妓夫太郎のイメージを見事に再現し、上書きする迫力を表現していたのである。

 そもそも彼は数こそ多くないものの一部のアニメ作品で悪役を担当し、その存在感を見事に表現してきた実績がある。たとえば『ソードアート・オンライン』シリーズでは、妄執に駆られて主人公を暗殺しようとするジョニー・ブラック役を熱演していたし、『魔入りました!入間くん』では普段はほわほわとしていながらも、実はサディスティックな本性を秘めていて主人公を狙うアミィ・キリヲ先輩を演じていた。その表現の豊かさには定評がある声優なのだ。

 第7話では堕姫が少女のように泣きわめき、兄に頼ろうとする。そこに現れた妓夫太郎は、妹の堕姫をかわいがりながら、対峙する音柱の宇髄天元を品定めする。相手を妬み、恨み、嫉むセリフを次々と放ち、その邪念で相手を圧倒するような禍々しさを発していたのである。

 アニメ『鬼滅の刃』の魅力のひとつは、声優同士の演技の激突だ。沢城みゆきと逢坂良太が鬼として圧倒的な芝居をぶつけてくれば、炭治郎役の花江夏樹と善逸役の下野紘、嘴平伊之助役の松岡禎丞、宇髄天元役の小西克幸がより激しい芝居でぶつけ返す。そのリミッターを超えた芝居と芝居の衝突が、作品をより面白くするのだ。

 はたして炭治郎たちは、妓夫太郎と堕姫の兄妹鬼に勝つことができるのだろうか。声優たちの演技バトルもこれからが見どころ、聴きどころだ。ますますヒートアップする遊郭編に期待したい!

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