復讐屋の周辺に暗雲が立ちこめる。新展開を迎えた『外道の歌』で描かれる、新たな敵の存在

マンガ

公開日:2022/2/6

外道の歌
『外道の歌』13巻(渡邊ダイスケ/少年画報社)

 妻子を殺されたカモ、母がひき逃げで死んだトラ。二人の男が復讐屋となり、法で裁けない「屑」(くず)に制裁を加える。『善悪の屑』(渡邊ダイスケ/少年画報社)と第二部『外道の歌』(渡邊ダイスケ/少年画報社)の主人公は、一見クールだが被害者を苦しめる屑には容赦しないカモだ。相棒のトラは、感情が表情や行動に表れる性格で格闘術に優れている。事件と被害者や遺族の心境、カモとトラの制裁がエピソードごとに描かれ、実際の事件をもとにしたものも多い。

『善悪の屑』からカモとトラの最後の敵だと思われていたのは、殺人鬼の青年・園田だ。園田はスピンオフ『園田の歌』で主役を務める人気キャラで、『外道の歌』10巻で描かれた彼を取り巻く展開には、多くの読者が驚いた。

 しかし、園田は“最後の敵”ではなかった。つまり園田を超える新たな強敵が、カモとトラの前に現れるということだ。

 この記事では、11巻以降を「新章」と呼び、新章で軸となる人物たちを考察する。

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■『外道の歌』新章では新キャラが続々登場!

 新章の新キャラで特に目立つのは、友好的な見た目に底知れない恐ろしさを秘めた國松だ。彼は起業家で社会的な成功を手にしていたが、なんらかの理由で逮捕された。國松の出所から新章は始まる。

“社会的弱者から搾取してる反社会的勢力を一掃し街を浄化する”(11巻)

 微笑みながら、そう話す國松。自分の周囲にいる人物が姿を消しても、彼は動揺せず、穏やかな表情を変えない。

 國松の個性は、側にいる桜内との対比によって際立つ。桜内は指定暴力団の若頭だが、自分の考える正義を重んじている。

 桜内は、カモの昔からの友達だ。カモの妻子が殺され、犯人が行方不明になったとき、彼は自分が犯人を殺さなかったせいでカモが犯罪に手を染めたのではないかと考える。このとき、桜内がカモに対して抱いたのは猜疑心ではなく罪悪感であることに注目してほしい。友達のために人を殺そうと心に決め、それができなかったという理由で罪悪感を抱くのは、彼の根幹をなす「正義」が極端であることを示している。

 しかし桜内の異常性はそんなに目立たない。桜内が登場する多くの場面に、國松がいるからだ。桜内の考えていることはわかりやすい。そのため、桜内と一緒にいる國松の本心がわからないことは、より読者の恐怖心を煽る。

 考え方も生き方も異なるが、國松はカモ、桜内はトラに近い部分がある。國松の人心掌握術は巧みだ。國松を「アニキ」と慕う指定暴力団の若頭・梅澤や、諸事情で病気の母と共に國松の家に居候している五月女を仲間にひきこんでいる。最新の13巻時点で、國松はカモとトラにまだ会っていない。

■これまでの登場人物たちもさらに際立つ

 一方、以前からの登場人物も、新章で存在感を増す。

 國松のエピソードと同時進行しているのは、大きな復讐業者「朝食会」の会長選である。ここで軸となるのは有力候補の榎加世子だ。

 初登場の頃の榎は、プライドが高く、個人で復讐代行をするカモとトラを見下す発言もしていた。しかし徐々に榎の血の通った人間としての一面がゆっくりと浮き彫りになる。2020年から榎が主人公のスピンオフ『朝食会』が始まったことも大きい。「朝食会」会長選に伴い、ここでも危険人物が多数登場し、榎の身に危険が迫っている。

 ある人物が他の人物に出会うことによって、双方の個性がより際立つ。それは物語の濃度を濃くすることにも繋がる。

『外道の歌』は勧善懲悪の物語ではない。そもそも安易に「善」に分類できるメインキャラがいないため、結末がどのようなものになるのかわからないのだ。

 そんな中、今後の伏線になるような描写も鏤められている。伏線をパズルのように組み合わせながら、読者はこれから物語がどう転がるのか想像する。しかし、いつもその想像は、登場人物の予想外の行動によって崩される。本作を読む醍醐味はそこにある。

文=若林理央

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