母から受け継いだのは新世代のガンダム！ ガンプラ企画から生まれたオリジナルコミック『機動戦士ガンダムF90FF』
マンガ 公開日：2022/4/21
1990年、『機動戦士ガンダム』のプラモデル“ガンプラ”をベースにしたメディアミックス企画『機動戦士ガンダムF90』が展開された。ストーリー設定は試作モビルスーツ（以下MS）「ガンダムF90（以下F90）」を中心とした地球連邦軍と、過去の戦争に敗れ火星に逃れたジオン公国軍残党の「オールズモビル」との戦いだった。
本稿で紹介するのは2022年現在、『月刊ガンダムエース』で連載中のコミック『機動戦士ガンダムF90FF（ファステスト・フォーミュラ）』（今ノ夜きよし：漫画、イノ ノブヨシ：シナリオ、小太刀右京（チームバレロール）：シナリオ協力、金世俊：キャラクターデザイン、森木靖泰：メカニックデザイン、大河原邦男：オリジナルF90デザイン、矢立肇・富野由悠季：原作/KADOKAWA）だ。
本作は1990年の企画『機動戦士ガンダムF90』の物語以前の、「F90」の開発と活躍を描くオリジナルストーリー。「親子」や「少年パイロット」といったガンダムファンにはおなじみの設定がちりばめられており、シリーズの王道ともいうべき展開を楽しめる作品になっている。
少年がガンダムのパイロットになる物語
シャアの反乱（『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』）から19年後、マフティー動乱（『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』）から7年後となる宇宙世紀0112年、地球連邦軍はMSの小型化を伴った「フォーミュラ計画」を進めていた。連邦軍の兵器研究・開発を担う機関・サナリィは、アナハイム・エレクトロニクス社との次期主力MSのコンペで勝利したMS「F90」のテストを行っていた。
パッツィ・アンゲリカは腕利きの女性パイロットで、「F90」に搭乗してデータを取るための模擬戦闘に取り組んでいる。ある日、彼女は所属不明のMSの襲撃を受ける。それは「ガンダム」に異常な執着をみせるランデッガー重工が開発したものだった。この敵が、パッツィ“たち”の運命を大きく左右することに……。
彼女にはリヴ・アンゲリカという13歳の息子がおり、パッツィは彼を伴って各地を転々としていた。そんな母はリヴにとっての憧れの存在。自分もいつかMSパイロットになることを夢見ており、密かに戦闘シミュレーションを行っていた。ただそれが避けがたい悲劇の種となることを、彼はまだ知らない。
リヴはある時「F90」を動かしてしまう。まるで歴代のガンダムを駆った少年たちと同じように……。ファンには胸アツの展開だ。アムロ・レイは15歳、カミーユ・ビダンは17歳、ジュドー・アーシタは14歳、バナージ・リンクスは16歳だった。そして「F90」は13歳のリヴを戦いにいざなう。
歴代の名機たちと新たなガンダム「F90」が相まみえる！
本作ももちろんMSが魅力的な作品である。主役機「F90」の特徴は2点。まず約15mに小型化したこと（これまでのMSは全高18～20m程度）。これにより機動性や生産・整備コストが抑えられている設定なのだ。この開発思想は、のちにサナリィが開発する「F91」に受け継がれていき、小型MSの時代になっていく。まさにMSの開発系譜の中で、大きなターニングポイントとなった機体なのだ。
もうひとつの特徴は、ミッションパックと呼ばれる多数のオプション兵装である。これらを換装することで「F90」はさまざまな戦況や作戦に対応することができる。本作の序盤は主にこのパックのテスト運用が描かれている。
オプション兵装は電子戦用のE（Electronic）タイプ、水中専用のM（Marine）タイプ、格闘用のＦ（Fight）タイプなど多岐にわたる。そして“次期主力戦闘仕様”とされたNタイプ。Nの意味が“NEXT”ではなく、別の意味だと明らかになった時、物語は大きく動き出していく。
小型MSが主流となる前夜のこの時代は、通常サイズや巨大MSがまだ現役で、アニメ『機動戦士Zガンダム』や『機動戦士ガンダムZZ』で活躍した「RMS-106 ハイザック」「MS-14J リゲルグ」「AMX-011S ザクIII改」「AMX-107 バウ」「NZ-000 クィン・マンサ」などが登場。さらにパッツィとリヴのいる部隊には、小型機である「F90」の前にサナリィが開発した「ガンダムF89」が配備されており、サイズの異なるガンダムが、ともに懐かしいMSたちと相まみえるのだ。
本作は2022年4月時点で、宇宙世紀0115年の独立部隊「FF（ファステスト・フォーミュラ）」が戦う第2部に突入している。部隊には「F90」が配備されており、そのパイロットはディル・ライダーと名乗る16歳の少年だ。はたして彼の正体とは？
1990年当時、ガンプラにハマった人には懐かしく、さらに「F90」が見せる新しい物語はたまらないはずだ。そして「親子」を描き、「少年」がガンダムに乗るというガンダムらしい展開も大いにファン心をくすぐってくれる。MS新時代の始まりを描く本作はこれからどんな展開を見せるのか。目が離せない。
文＝古林恭
