「今月のプラチナ本」は、浅田次郎『母の待つ里』
公開日:2022/5/6
あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
『母の待つ里』
●あらすじ●
「ふるさとを、あなたへ。」
苦労を背負いながら社会の中で踏ん張って生きてきた、還暦世代の男女3人。家庭も故郷もない彼らに届いた「理想のふるさと」への招待。半信半疑で向かった先で出会った「母」と過ごす時間は、やがて彼らにとってかけがえのないものになっていき──。「何があっても、母はお前の味方だがらの」。ふるさととはなにか、家族とはなにか、人生における幸せについて、改めて考えさせられる。
あさだ・じろう●1951年、東京都生まれ。95年『地下鉄(メトロ)に乗って』で第16回吉川英治文学新人賞、97年『鉄道員(ぽっぽや)』で第117回直木賞、2000年『壬生義士伝』で第13回柴田錬三郎賞、16年『帰郷』で第43回大佛次郎賞など受賞作多数。その功績により、15年に紫綬褒章、19年に第67回菊池寛賞を受賞。その他『プリズンホテル』『蒼穹の昴』のシリーズや『おもかげ』『長く高い壁 The Great Wall』『天国までの百マイル』など著作多数。
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- 浅田次郎
新潮社 1760円(税込)
写真=首藤幹夫
編集部寸評
ペン一本で日本を背負う男に敬礼
1泊50万円のツアー、その行き先が東北の寒村だと知ればどうだろうか。しかし作中の男女は、その土地を訪れる。遠くて不便でなにもない、母の待つ里。それがどうしようもなく魅力的に見える。浅田次郎のマジックだ。人生の中盤をとうに越えた3人は、当て所のない人生を懸命に生きてきた。しかし働き詰めるほど、母とは距離ができる。そんな3人が立ち止まる姿は涙なしには読めない。そして母にも、また自身のエピソードがある。「考えたこともなかった」。こんな言葉が頭に浮かんだ。
川戸崇央 本誌編集長。作者の『壬生義士伝』こそ、私の人生を変えた一冊だ。いつも新しいチャレンジをされていて本当にすごい。ただただありがとう、です。
おそるべし。ふるさと沼の誘惑
ふるさとなんていらんという人にこそ、むしろお勧めかもしれない。私自身は地元ぎらいで実家と疎遠。故郷という概念に縁遠く生きてきた。本作に登場するのも故郷と呼べる場所をもたない都市居住者たち。そんな彼らがサービスとしての「ふるさと」の沼にずぶずぶとハマっていく様子に、私はちょっと戦慄した。こんなの十数年後に絶対ほしくなってしまう。浅田さんの描くふるさとと「母」はあまりに魅惑的で、これまでなかった欲がうごめきだすのである。だが高い。きりきり働こう。
西條弓子 ムーミン特集を担当。幼い頃は怖くてしょうがなかったモランが今や最推し。公式サイトのキャラ紹介だけで泣ける。守ってあげたくなる女性です。
私の「ふるさと」を思い出し泣いた
母の故郷が宮崎県の山中にあって、そこで祖母が暮らしていた。私はハードワークの末に心が病んだ時期があって、辛くなったらその都度、宮崎に向かっては強い方言、優しい笑顔、しわくちゃの手で料理をこしらえてくれる可愛い祖母に会いにいった。そこは無条件に愛されていることを再認識できる場所だった。実家でもないのに不思議だ。「ふるさと」ってそういう場所なのだろうか。今後歳を重ねる度に訪れるだろう「喪失」に怯えつつ、小説を読みながらその祖母を思い出し涙が出た。
村井有紀子 結構ハードスケジュールで動きまくったせいか先日ダウンして一日寝ておりました。折角テニススクール通い再開したのに。歳~!って唸りました。
希望のある読後感がじんわりと
1泊2日で50万円のふるさと体験というユニークな設定だが、人生で向き合わなければいけないものが描かれている。年々こういったタイトルの作品が、深く沁みるようになった。それぞれの事情を持つ3人の利用者が、このサービスにのめりこむ様子は他人事とは思えないし、この“嘘”は、どんな形で明らかになるのだろう?と気になって仕方がない。「嘘と実(まこと)が奇妙に絡み合ったこの時間」と表現されるお葬式に集まる「子供たち」の会話やラストに救われた気持ちになる。
久保田朝子 脂肪を溶かす水、という嘘かまことか!?という水を購入しました。知り合いはこれを飲むだけで3キロやせたというので、信じて飲んでみます!
自分のふるさとはどこにあるのか
生まれも育ちも都会で、テレビで見かける「実家」には縁がないという人は、今の時代には多いのではないか。主人公たちが初めて「母の待つ里」を訪れたとき、そこはまだ「にせものの里」だった。おいしい食事と優しい母。カード会社が用意した桃源郷だ。しかし、にせものであったはずの母はあまりにも純朴で、少しずつ本当の母のような存在になっていく。自分のふるさとは、生まれた地だけではない。自分に心を寄せてくれる人と出会えた地もまた、大切なふるさとなのだと思う。
細田真里衣 「期間限定!」と書かれたお菓子に弱いタイプです。つい買ってしまうのですが、魅力的なキャッチコピーの商品ほどおいしくないときありませんか?
“ふるさと”が失われていく現実
私は“ふるさと”というと曽祖父の家を思い出す。SLの汽笛が鳴り響く、茶畑に囲まれた小さな村の酒屋。でも、今はもうない。過疎化の影響を受けて家を売り払い、お墓も移してしまったのだ。本作では「理想のふるさと」に通う男女3人の姿が描かれるが、彼らを迎える「母」や人々の姿からは、都市への一極集中、地方の過疎化といった、今の社会全体の問題が透けて見えてくる。心のよりどころとなる“ふるさと”が失われていく、その現実から目をそらしてはいけないと、そう思った。
前田 萌 夏休みやお正月に曽祖父の家に遊びに行きました。川で飛び込みをしたり、茶摘みを手伝ったり、ウリ坊に会いに行ったり……。貴重な経験でした。
その「虚構」に惹かれる理由とは
田園が広がる風景、茅葺屋根で覆われた民家、聞き取るのに苦労するほどのきつい訛りで喋る人々。この作品に登場する景色は、「ふるさと」という言葉を聞いたら誰もがすぐに思いつくようなイメージの寄せ集めでできている。人生に行き詰った還暦世代の男女3人が向かった“理想のふるさと”。そして、そこで彼らを出迎えたのは初めて出会う「母」。絵に描いたような田舎景色の中でそれぞれが出会った「本物の愛」に触れたとき、すでに私たちもその「虚構」に心動かされているのだ。
笹渕りり子 ショートカットの女たち担当。素敵なショートが並んでいるのはもちろんのこと、その髪型に隠された背景が興味深い特集です。P124からぜひ!
人を幸せにするものは何か
「理想のふるさと」への招待状を受け取る登場人物たちはいずれも、社会的にはそれなりに成功を収めた人々だ。金銭的に余裕のある彼らが求めるものが「ふるさと」であるということに、戸惑う。彼らが欲しかったのは、風景や食事、方言などの要素だけでなく、自分を拒絶しない、絶対的な味方のいる場所としての「ふるさと」だった。そのことが、「母」との時間を通じてわかってくる。自分は何か大切なことを忘れてしまっていないか。どう生きるべきか、突きつけられたように思えた。
三条 凪 ついにPS5を入手。アクションRPGにバトルロイヤルゲーム、なにをやってもグラフィックが素晴らしすぎて、酔います。操作どころの話ではない……。
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