変えられない過去にとらわれず、「今」を大切に生きる。『地下鉄に乗って』/佐藤日向の#砂糖図書館⑬
皆さんは普段、どのくらいの頻度で地下鉄を利用するだろうか。 私は移動で基本、地下鉄を利用するため、ほぼ毎日乗車していると言っても過言ではない。 小学生の頃から仕事の現場にひとりで電車で通っていたこともあり、気づけば色々な駅に沢山の思い出が色濃く残っている。
今回紹介するのは、人によって様々な思い出があるであろう、 メトロに纏わる浅田次郎さんの『地下鉄(メトロ)に乗って』という作品だ。 私がこれまで紹介してきた本はミステリーが中心で、ファンタジーやSFには触れてこなかったが、この作品に終始漂う浪漫と切なさが、私の読書の幅を新たに広げてくれた気がする。
『地下鉄に乗って』は、主人公が地下鉄の駅の階段を上がって辿り着いた場所が30年前で、兄が自殺をした命日にタイムスリップしていたところから、物語が動き出す。 地下鉄が、彼の父が過ごした時代へ導き、現世から過去にタイムスリップした主人公は、父を取り巻く人々や時代の流れをリアルで体験する。 兄が自殺を図ったきっかけ、父が家族には見せなかった本当の姿、そしてそこに絡んでくる現世とは異なる時代背景―…