高齢者と若くて元気な人の病気のお世話の違いとは? 介護に必要な医療と薬の知識をわかりやすく学べる1冊

暮らし

公開日:2022/5/25

完全図解 介護に必要な医療と薬の全知識
完全図解 介護に必要な医療と薬の全知識』(長尾和宏、三好春樹:編著、東田勉:編集協力/講談社)

 世界でも稀にみる超高齢社会といわれる日本では、親や連れ合いの介護も喫緊の問題。でも、実際に介護を行うのに、どんな知識や考え方が必要なのか? よくわからないという人も多いはず。そんな人に手にとってもらいたいのが『完全図解 介護に必要な医療と薬の全知識』(長尾和宏、三好春樹:編著、東田勉:編集協力/講談社)だ。

 25年以上にわたり在宅医療に従事し、数えきれないほどの高齢者を診てきた医師、長尾和宏氏と、介護をテーマに多数の講演や実技指導を行い、現場から絶大な支持を得ている三好春樹氏。このふたりが、医療と介護、それぞれの立場から介護に必要な知識や考え方を幅広く教えてくれる。介護職にも在宅介護をしている一般の人にとっても、とても役立つ内容になっている。ここでは、その一部を紹介したいと思う。

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高齢者はやせて転びやすい人!?

 導入となる「序章」で取り上げられているのは「これだけは知っておきたい高齢者医療」。実は一般的な医療と高齢者医療には、すでに異なる部分があるという。介護者には、まずその違いを理解することが必要で、それが質の高い介護への第一歩になるという。

 例えば、高齢者の体の特徴は「心身の虚弱化が進む」ことだという。高齢者の体をひとことで表すと「やせて転びやすい人」となり、若い人と同じような病気やケガをした場合でも、ガクッと衰え、さまざまな症状が出てしまうという。

 それを医療の力で無理に治そうとするとかえって生活が損なわれることもある。むしろ弱った部分だけに目を向けるのではなく、複数の病気や症状をバランス良く見て、「日常生活の維持」を心がけることが大事なのだというが、知らなければそんな考え方を持つのは難しいことだろう。

完全図解 介護に必要な医療と薬の全知識 p12-13

○高齢者には「水分」と「歩行」が重要
○把握すべきは「普段との違い」
○「急変=救急車」とは限らない
○治療より「病気とのつき合い方」が大事
○薬にはリスクがあることを知ろう
○「ゴール」を見定めておくことが大切

 これらが序章で解説されるテーマだが、介護者が「把握すべきは普段との違い」や「治療より病気とのつき合い方が大事」など、若く元気な人が病気やケガをしたときとは意識すべきポイントが違うことがよくわかる内容になっている。

高齢者の体の理解から看取りまで

 本書の特徴のひとつは、取り上げている内容の範囲が広いこと。

第1章 高齢者の体と病気の特徴
第2章 病気にならない生活づくり
第3章 日常の医療との関わりと予防
第4章 よく起こるトラブルと体調不良への対応法
第5章 重大な疾患へのアセスメント
第6章 高齢者への薬物療法と減薬
第7章 終末期の入院や延命の判断

 そして、「高齢者の体と病気の特徴」なら、「体の特徴①〜③」「病気の特徴①〜④」というように、複数の視点からわかりやすい解説をしてくれる。全編をとおしてイラストを使用してポイントを抽出しているのに加え、多くのテーマに「長尾流アドバイス」という医師目線と、「三好流アドバイス」という介護職目線のアドバイスが盛り込まれていて、エキスパート2人の意見がはっきりわかる作りになっている。

 例えば「自覚症状に乏しく、訴えも少ない」という高齢者の特徴に対しては、訴えがない理由は、「高齢になると典型的な症状が出ないので、自覚症状に乏しいのです」「認知症がある、意識障害がある、人間関係上の阻害要因がある、我慢強いなどの理由も考えられます」と答えている。そして、介助者が行うべきこととして「まず生活の質が下がっていないかを調べましょう」「安易に対症療法薬を出さない医師、生活づくりに協力してくれる看護師などの医療職に相談しましょう」と提案。さらに「加齢に伴うおもな全身の変化」として、体の各部位に現れる変化の解説を加えているという丁寧さだから、知識のない人にとってもわかりやすく、役立つ内容といえるだろう。

完全図解 介護に必要な医療と薬の全知識 p20〜21

 編著者の長尾医師によれば、医療は介護をよく知らず、介護は医療をよく知らないのが現状だという。そんななか、現役の医師と、介護を知り尽くした理学療法士が共著した本書は貴重な1冊。介護を担う方々には、教科書としておおいに役立ててもらいたい。

文=井上淳

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