SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第13回「プライスレスで、フィニッシュです」

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公開日:2022/7/27

 な、に、が!

 もう訳がわからなくてただ黙っていると、社長はサッと踵を返してトイレを出ていってしまった。一体何だったんだろう。追いかけるのも妙だし、掃除の続きをやるのもやっぱり妙だ。私はそのまま立ち尽くすしかなかった。するとすぐに社長が、もう一度入り口から顔を覗かせて私に言った。

「うまくいくよ、音楽。君は大丈夫」

 そしてまたサッといなくなった。おオ、一体なんだ今のは。すると次は店長が顔を覗かせて私に言った。

「すごいじゃんしぶちゃん、音楽うまくいくって、よかったね」

「え、あ。はい、よかった、です」

「でも、あれだから」

「何ですか」

「サンポールは絶対撒いてね」

 そうして店長は社長を追っていなくなった。

 

 社長は占い師でも預言者でも何でもないし、例えそうであったとしても、私はこの時の言葉をそのまま鵜呑みにするようなことはしなかったと思う。それでもあのとき社長から滲み出ていた覇気みたいなものはビンビンに感じていた。だから、あのときの「うまくいくよ、音楽。君は大丈夫」という社長の言葉は私の自信になった。もしかしたら誰にでも言っていたのかもしれないが、例えそうであったとしても二十四歳の私にとって、漲らせた人間が発したその言葉が及ぼした影響は大きかったのだ。

 変な言い方になるが私にとって社長は、憧れの対象でも、崇拝している人でもなかった。というより、そうに至る程知らなかったという方が正しいかもしれない。強いて言うならテレビで見たことあるから凄い人と思っていたくらいだった。しかしどういうわけか今になってもことある毎に思い出すのだ。なんだか、お守りみたいな言葉なのだ。

 人が滾(たぎ)らせているエネルギーは多分伝わる。それは多分自信とか意志とか野心とか。

 言葉は、誰かの薬になることもあれば、誰かの毒にもなるのだということを、オンステージする人間として絶対に忘れてはいけないなアと思うに至る。

 社長、言われた通りになれるよう、地に足つけて頑張ってます。ありがとうございます。

 店長、念押しされたのに、バイト最後の日までサンポールは撒きませんでした。ごめんなさい。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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