Flower代表・秋さん(後編)/歌舞伎町モラトリアム⑥

エンタメ

公開日:2022/8/29

 自身もホストクラブに通いながらも、社会学として歌舞伎町を研究する佐々木チワワ。そんなチワワが歌舞伎町で活躍する様々な「エモい」ホストと対談し、現代のホストクラブについて語りつくす新連載、「歌舞伎町モラトリアム」。

秋さん

 前回に引き続き、歌舞伎町で4年連続売り上げ1億円を突破し、現在は「Flower(SINCE YOU…GROUP)」の代表を務める秋さんへのインタビューをお送りします。

 後編では新店に込めた思いから、その壮絶な生い立ちまで秋さんのパーソナルな部分に触れていきます。

advertisement

自分の色で花束になろうよ

佐々木:最近オープンした秋さんのお店「Flower」ですけど、内装もめっちゃかわいらしいですね! お花がたくさん。店名に込めた意味とかあるんですか?

:ホストやるやつって、本当にもう仕事が続かないやつとか、駄目なやつばっかなんですよ。その中でも一応、慶應出身とか色々ちゃんとしたやつもいたりするんですけど。そうした、色んな種類の人種が集まって、皆が自分の色を出して、自分らしく咲き誇れるこのFlowerっていう店にしたいなっていう意味を込めてます。みんな自分らしさを保ちながらも集まって、一緒に花束になろうよみたいな感じです(笑)。

佐々木:ロマンチック…! そんないろんな色を添えるキャストさんたちの中で、思い出深いキャストとのエピソードとかありますか?

:めーちゃくちゃありますね! 面白いのだとなんだろう…。あおいって従業員がいるんですけど。みんなで韓国旅行行く当日、集合時間に空港に来なくて。鬼電してやっとつながったと思ったら、もうべろべろだったんですよ。朝まで飲んでたらしくて(笑)。「いいからお前早く来いよ!」ってなってタクシーで来させて。「お前いいから、早くパスポート! パスポートどこやねん!」って言ったら「あ?わかんねーっすよ!」ってあおいが逆ギレしてきて。「お前ええから! バッグ開けろ!」って言ってバッグ開けたら、あの、足の匂い消すクリームみたいなものがあるんですけど、それしか中に入ってなかったです(笑)。「お前さー」みたいな(笑)。それで結局韓国に行けなかった。あれは結構おもろかったですね。

佐々木:いや、めちゃくちゃ面白い。ホストの方って毎日ものすごい量のお酒を飲むからか、奇行に走る面白い人のエピソード豊富ですよね…(笑)。女の子だとどうですか?

:酒ヤクザっていうか、飲ませるのが好きなお客様はいましたね。卓に戻った時にテキーラが20個置いてあったんですよ。そのお客様も酔っぱらってて、「これ全部飲んだら、シャンパン2本入れてあげるよ」って言われて。俺もちょっとカチンときて、やったるわと思って、全部飲んだんですよ。そしたらシャンパン2本、本当に入れてくださって。で、それもテキーラをチェイサーにしながらひとりで全部飲んでましたね。

佐々木:…聞いただけで吐きそう…えげつい…。

:で、その日無事にラストソング取れたんですけど、ベロベロになりすぎて、壁壊しちゃって(笑)。歌ってる間ペンライト振る時間がその当時はあったんですけど、「てめぇら全然盛り上がってねえじゃん! この店どうなってんだよ!」ってキレてたらしくて。その時の僕の曲選が赤西仁さんの「eternal」という曲だったんですが。それじゃ盛り上がらないだろ(笑)って話なんですけど、記憶が…

佐々木:いやそれは秋さんの曲選びの問題もだいぶありますよ(笑)!!

ホストは誰よりぶっ飛んでる奴が売れる

佐々木:秋さんが以前おっしゃっていたことで印象的なことがあって、店の代表としてのコメントで「ホストはぶっ飛んでる奴じゃないと売れない」って話をしていて確かにな…と思って。

:やっぱ億とか売ってる人はぶっ飛んでる人が多いですよね。これはもうおもろいなっていう。おもろい人じゃないとなんか、なんだろ、この人なんかいかれているけど、なんか好きみたいな、いかれているアイドルであり俳優だと思ってる。普通の人と飲むんじゃ大金払う価値ないから。一緒に飲んだらいろんな意味で毎回ちゃんと「ヤバい」って思われる人って最強だと思います。

佐々木:なるほど。確かにそういう方は3分とかの短い接客でもガッツリ爪痕残していく印象ですね…。それみたらお酒出しちゃう(笑)。でもそういういい意味でぶっ飛びたいとか、自分の殻を破りたいって人って多くいると思うのですが。ぶっ飛んでる人は何を持っている人なのでしょうか。

:うーん…多分、多分っすけど、結構そういうぶっ飛んでる人ってなんか、どん底味わってる人だと思うんっすよね。人生の中で。

自分で稼がないと終わる、と思って生きた10代

佐々木:どん底……。秋さんだったらそのどん底っていう経験は?

:僕は物心ついた時からお母さんと二人暮らしで、兄弟もお父さんもいなかったんですよ。そんな中で19歳の時にお母さんが亡くなった。それが一番のどん底で、孤独でしたね。その時に助けられたのは音楽だったんですけど。

佐々木:前編でもおっしゃってましたね。

:僕の場合はおじいちゃんとおばあちゃんはいたんですけど、やっぱ歳だし頼れなくて。だからもう自分本当に一人で生きていくしかなかった。だから後がないというか。自分が稼がなっかたら本当にやばいし、頼れる人が誰もいないという状況の中で生きてきたから、そりゃもう全力で生きてやれること全部やるって感じで。だからお金を稼ぐってことに対しては結構その時からシビアだったかもしれない。

佐々木:最後の質問です、秋さんにとって、ホストの仕事ってどんな仕事ですか?

:苦しい…かな。苦しい仕事。でも僕は目の前の人を笑顔にしたいなという思いがずっと強くあるので。そういった意味では女の子が苦しいことを忘れて、楽しめる最強のエンターテイナーだと思います。

佐々木:どん底といえる過去があったからこその今というか、一人で生きてきた秋さんが今お店をもって、みんなを支えて支えられて…と思うと、最初に聞いた店名の由来がより一層エモく感じられます。ありがとうございました!

 

編集後記

 最近は軽い気持ちや承認欲求で軽くホストを始める子が増えてきた中、どん底と言い切れる環境を潜り抜けてきた秋さんが言う言葉はなんだか重みがあったように感じられます。そして女はそんな真剣な男を真剣に応援したくなるもの。7年ほど指名し続けてくれているお客様もいるという秋さん。こういうホストのホストとしての生きざまを数年単位でみるというのはとっても贅沢なことなのかもしれない…。そう思うと自分が指名したホストの生きざまを最後まで見届ける姫になってみたいな、などと思いました。私の最後の担当どこーーーー!!!

<秋さんのSNSはコチラ>
・Twitter:@aki_asakura6
・Instagram:aki_asakura
<お店の詳細はコチラ>
・Flower

あわせて読みたい

佐々木チワワ(ささき・ちわわ)/2000年生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)在学中。10代から歌舞伎町に出入りし、フィールドワークと自身のアクションリサーチをもとに「歌舞伎町の社会学」を研究する。歌舞伎町の文化とZ世代にフォーカスした記事を多数執筆。現在、初の書籍『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社)が好評発売中。
Twitter:@chiwawa_sasaki